大河ドラマで再脚光 遊郭・赤線跡地を撮り続ける元吉原ソープ嬢色街写真家・紅子さんが伝えたいこと
日本三大ソープのひとつで……
’25年NHK大河ドラマ 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。横浜流星演じる主人公・蔦屋重三郎が江戸吉原遊郭で生をうけ、吉原に生きる人々と深く関わりながら生きていく、というストーリーだ。 【こうも変わるか!】紅子さんが活写した飛田新地の”内部”写真 人気アニメ『鬼滅の刃』でも吉原が舞台になるなど、令和に入り遊郭に注目が集まっている。一方、1958年に売春防止法が全面施行され66年が経過していることもあり、今年10月には奈良県大和郡山市東岡町に残る旧遊郭の建物の取り壊し工事が始まるなど、遊郭の記憶が失われ始めている。 そんな遊郭や赤線(半ば公認で売春が行われていた地域)、青線(非合法で売春が行われていた地域)跡地の写真を撮影しているのが色街写真家の紅子さんだ。 「もともと街歩きが趣味で、昔から置き去りにされたような路地裏が好きだったんです。4年前からそういう場所を本格的に撮り始めるようになって、その場所の歴史について調べていったところ、赤線や青線跡地であることが多くて。それで3年前から色街だった場所の撮影を始めました」 現在52歳の紅子さんは、19歳から32歳まで風俗の仕事に従事。埼玉県西川口のピンサロ店からスタートし、22歳の時に東京・吉原へ。28歳の時には“日本三大ソープ店”と呼ばれる人気店『ピカソ』へ移った。結婚を機に辞める32歳まで同店で勤務していた彼女が、遊郭や赤線跡地にシンパシーを感じるのは必然だったのかもしれない。 「今の肩書を名乗るようになったのはYouTubeを始めるようになってからですね。当初は“元ソープ嬢が伝える遊郭の歴史”みたいなタイトルで動画を公開していたのですが、YouTubeは規制が厳しいので、直接的なワードを使うと広告がつかないんです。それでいろいろ試行錯誤した結果、“色街写真家”という肩書に落ち着いたという感じです」 XなどSNSのアカウントでは、“元吉原ソープ嬢紅子@色街写真家”と名乗っているが、それにはこんな想いが。 「高校は半年ほどで辞めてしまい、計算ひとつもロクにできなかったこともあり、正社員になることができなくて。気づけば風俗の世界にどっぷりハマっていて、当時は何でこんな世界にしかいられないんだろうと悶々としていました。 “風俗嬢だった過去を後悔したまま人生を終わらせたくない”というのも、写真を撮り始めた理由です。風俗嬢だった過去があるからこそ、今の活動を続ける意味があると思っています」 ◆アングラ、サブカルチャーの先に 高校中退後に美術系の専門学校に進学。風俗嬢時代にもアート活動を行っていた時期があった。 「寺山修司の映画や暗黒舞踏のような世界に憧れがありました。私が風俗の世界に飛び込んだ’90年代は、風俗がアングラやサブカルチャーのラインで語られていた時期でもあったので、その延長線で風俗の世界に進んだというのも、少なからずあります。 でも、実際の風俗の世界って全然アングラな世界ではないんですよ。礼節を重んじる世界なので、来てくださるお客さまに受け入れてもらうためには、アングラとは真逆になるしかない。アート活動を行う際、“風俗嬢”として表現していましたが、実際は食うための手段でした」 シングルマザーとして女手一つで子育てをしていたこともあり、長い間、創作活動から離れていたものの、48歳から“元吉原ソープ嬢の色街写真家”として活動するようになった紅子さん。 初めて写真展を開催した際は「風俗店に来る感覚で男性のお客さましか来ないのでは」と案じたが、実際の客層は大きく異なっていた。 「女性や高齢の夫婦など、幅広い層の方に来ていただきました。女性は自分の人生や、内に秘めた性を重ね合わせて鑑賞してくださっているみたいです。高齢の方には現役時代の遊郭を知っている人もいるので、写真から過去への郷愁を感じるようでした。純粋に写真を評価していただけて嬉しかったですね」 10月には静岡県熱海市の旧赤線地帯・糸川べりにある『バーコマド』で写真展や街歩きイベントを開催。大盛況のうちに幕を閉じた。だが、一部からは開催を快く思わない声も上がったという。 「遊郭や赤線跡地は“負の遺産”だと考える人も多く、そこのエリアで育ったことで苦労している人も少なくありません。“いかがわしい表現をされるのでは?”と不安を感じて当然ですよね。 ただ、実際に写真を見せると、きちんと評価していただけました。そのエリアに住み続けている人たちに迷惑はかけたくないので、地元の方と交流をしてから写真を撮るようにしていますし、写真展や写真集で使用する際の写真は可能な限り、地元の方に許可を取っています。使用したかったけど、写真展での展示を見送ったものもあります」 岡山県岡山市にあった中島遊郭跡地の建物を再利用した古民家カフェなど、近年は遊郭跡地を再利用する動きも進んでいる。 「批判的な声も上がりますが、残してもらえることには感謝しかないですね。売春防止法の全面施行から66年経っているので、耐震的な面で当時の建物が取り壊されているのは仕方がない。ただ、それならリニューアルして一部だけでも歴史を残してほしい。 京都の旧橋本遊郭にある『旅館 橋本の香』は、遊郭時代の歴史を理解した上で、中国出身のオーナーが修繕して残してくれているんですよ。中に入れる遊郭跡は数少ないので、一度足を運んでほしいですね」 現在、第2弾写真集『紅子の色街探訪記2』の出版を目指して、クラウドファンディングを’25年1月31日まで実施中。すでに316万円を超える支援が集まっている(11月25日現在)。 「今はネットで検索すれば、YouTubeなどでいろんなことが学べる素晴らしい時代。私も48歳から本格的に写真を学び、撮り始めました。何歳からでも人は生まれ変わることができるということを伝えられたら。 大河ドラマや人気アニメなどで遊郭に興味を持たれる方もいると思いますが、昔は口減らしや借金のかたとして女性がそこに売られて遊女となり、苦労を重ね、葬られてきたという歴史があります。私の写真や遊郭跡地から、そういった部分も感じ取ってもらえればと思います」 文・撮影/水野好美 編集プロダクション、出版社を経てフリーライターに。趣味の国内のディープスポット巡り、公営ギャンブル関係の記事のほか、芸能人のインタビューまで幅広く執筆中。
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