『虎に翼』法服から“消えた”刺しゅうは「国家の象徴」だった? 戦後「黒一色」のシンプルなガウンになったワケ
“民間人”の弁護士には「五七の桐紋」がない
ところで『虎に翼』で描かれた戦前の法廷シーンから、判事と検事の法服、そして弁護士の法服とで、刺しゅうの色以外に違いがあることに気がついただろうか。 両者の違いは「五七の桐紋」の有無。国の官員である判事と検事の法服にはこれがあしらわれているのに対し、民間人である弁護士の法服は唐草模様のみとなっている。 「五七の桐紋と唐草模様(蔓模様)の組み合わせが『国家の象徴』として最初に現れたのは、私が知る限りでは明治5年11月の太政官布告によって制定された文官大礼服(官員の正装)です。 なお五七の桐紋は、現在でも日本政府(国家)の紋章として受け継がれています」(刑部教授) ちなみに五七の桐紋の数は、地方裁判所および区裁判所の判事・検事は3つ、控訴院(現在の高等裁判所)は5つ、大審院(現在の最高裁判所)は7つと、“格”が上がるごとに増えていくそうだ。
法服は各自が呉服店で仕立てていた
日本近代史を専門とし、これまでもNHK大河ドラマ『西郷どん』で軍装・洋装考証、連続テレビ小説『エール』『ブギウギ』で風俗考証を手掛けてきた刑部教授。『虎に翼』では、自身が所蔵する法服をもとに、キャストたちの着用する衣装が制作されたという。 その法服を間近で見ると、無地に見えた黒地の部分に細かい透かしの柄が入っていることが分かる。 「これは波立涌(なみたてわく)文様というものです。ドラマではここまで再現していませんが、前述のように戦前の法服は古代の朝服をモチーフにしていたことから、基本的には呉服店で着物の生地を使って仕立てていました。ちょうど今の学生服のように、各自が店へ採寸に行き注文していたため、無地ではなく薄く模様の入った生地を選ぶ人もいたようです。 さすがに黒以外の生地や、あまりにハッキリと柄が出ている生地で仕立てたら怒られてしまうでしょうが、“よく見れば分かる”というくらいのさじ加減で、おのおのがおしゃれをしていた様子が想像できます」(刑部教授) 服の上に羽織るため、コートやマントのようにある程度の厚みがあることを想像していたが、実物は着物の生地でできているため、驚くほど薄く軽やかだ。