高齢者はサービス「無人化」は悪い印象…人手不足ニッポンで「これから起きていくこと」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
論点4 デジタル化に伴う諸課題にどう対応するか
今後、人件費コストの増大によって財やサービスの価格が緩やかに上昇していけば、人手を用いたきめ細かいサービスを大量に消費することは少しずつ難しくなっていく。 働き盛りの労働者が持続的に減少していく未来において、日本の消費者が引き続き豊かな暮らしを送るためには、日本経済のデジタル化を進めていくことは不可欠である。そして、デジタルの技術が浸透していく過程においては、機械によるサービス提供の限界にも一定の理解を示していくことや、情報技術がもたらすリスクに適切に向き合っていくことも必要になるだろう。 人手不足下におけるデジタル技術の活用に関して、朝日新聞は2024年世論調査を行い、その実態を明らかにしている。同調査においては、デジタル化に伴うサービスの無人化について「これまで人がしてきた仕事やサービスが、デジタル技術の進歩によって無人化されていくことに、よい印象を持っていますか。悪い印象を持っていますか。」という設問を設け、回答を聴取している。そして、その結果は「よい印象」と答えた人が50%、「悪い印象」と答えた人が36%となった(図表3-8)。 この設問の賛否は年齢が大きく影響している。年齢別に回答結果を見ると、20代ではよい印象があると答えた人の割合が74%に上り、若い人にとっては無人化に伴うサービス水準の低下は抵抗なく受け入れられる様子が見て取れる。一方で、70歳以上ではよい印象が33%、悪い印象が53%になっており、相対的に抵抗感が強い結果となった。 こうした結果をみると、歳を取った消費者ほどデジタル技術の活用に伴う潜在的なリスクへの意識が高いのかもしれない。あるいは、スマートフォンでのアプリ操作などの負担感や、無人化に伴うサービス提供者とのコミュニケーションの喪失といった実際のサービス水準の低下を強く感じる傾向があるのだと考えることもできる。 実際に、これらデジタル技術を用いたサービスの多くは経済の効率化に大きく貢献するものの、それでもやはり従来のように人手を介したきめ細かいサービスを享受したいという消費者の欲求は強いのだと思われる。 デジタル技術を用いたサービスの提供には一定のリスクも伴う。昨今においても、企業側がAIなどを用いて個人情報を情報提供側の意図せぬ形で活用したことが問題になるケースも発生している。あるいは、ロボティクスや自動運転技術がビジネスの現場に浸透していくにあたっては、事故等の発生に伴って、人に身体的な危険が及ぶこともありうる。 こうしたリスクに関して、欧州ではAI規正法が成立するなど実際のサービスの適用にあたっての規制を導入する動きも広がっている。デジタル技術の活用には一定のリスクが伴うなかで、こうした規制を導入することによってサービス提供者に認められることとそうでないことを明確化することは今後重要になってくるとみられる。 こうしたなか、今後は何よりも消費者側が、新しい技術の有用性を広く認識し、ロボットフレンドリーな社会風土を形成していくことが重要である。人口減少が本格化していく日本は、先進技術による機械化・自動化の恩恵を最も受けやすい環境にある。さらに、日本はロボットに関する大衆コンテンツが幅広く普及しているなど文化的な観点でみても、諸外国と比べればAIやロボットなどの技術が浸透しやすい風土が整っていると考えることもできる。 新しい技術を活用するにあたっては、何か事故が起こったときに、社会がどのような対応をするかがその技術の浸透に大きな影響を与える。新しい技術を浸透させるためには、それを活用することに伴って顕在化したリスクに対して、技術の有用性自体を否定するのではなく、どうすればより良い活用の仕方ができるかなどを建設的に議論できるような社会風土を形成していく必要がある。デジタル技術を生活の豊かさにつなげていくためには、消費者側の新しい技術に対する寛容度を高めることが重要なのである。 労働力が減少していく未来においては、これまでのような豊富な人手をいくらでも使ったきめ細かいサービスを大量に消費することは許されなくなっていく。逆に言えば、現代日本は世界の中でもAIやセンサーなど先進技術を使った省力化のメリットを最大限享受できる環境にあるといえる。新しい技術に寛容な社会風土を醸成することができれば、日本は世界でも有数のオートメーションが進んだ高度な経済社会を構築することも不可能ではない。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)