「美声と名演技にメロメロ…」昭和ロボアニメを彩った「美形悪役キャラ」の悲しきドラマ
■白き翼を持つ美丈夫「リヒテル提督」
長浜ロマンロボ3作目の『闘将ダイモス』(1978年より放映)に登場した「リヒテル提督」も市川さんが演じた忘れられない美形悪役である。 長い金色のまき毛が印象的なリヒテル提督は、赤い布のような装飾を頭につけた美男子。もっとも目をひくのがバーム星人の特徴である、その背に生えた“白い翼”である。キャラクターデザインを担当した聖悠紀さんの漫画では、ふわふわとした巻き毛の美少年として描かれている。 故郷の惑星を失った10億人ものバーム星人は、移住を求めて地球に交渉。だが、バーム側の代表が何者かに毒殺されたのをきっかけに交渉は決裂し、戦端が開かれる。バーム星人の攻撃に対し、地球側は竜崎一也が乗る巨大ロボ「ダイモス」で対抗するというストーリーだ。 そして主人公の一也は、記憶を失った美しい少女エリカと恋に落ちるが、実は彼女の正体はバーム星人で、それもリヒテル提督の妹だった。 要するに本作は、エリカと一也が繰り広げるロボットアニメ版「ロミオとジュリエット」のような物語なのだ。 ふたりの前に立ちはだかるのが、とにかく人の話を聞かないリヒテルだ。黒幕が仕組んだ罠にまんまとハマったうえ、地球との関係を改善しようとするエリカの言葉を聞き入れず、「裏切り者」扱いする。 さらに一也には“妹をたぶらかした”と、ことあるごとに恨み節を吐くのだが、憎しみのこもった「おのれぇ~っ!」という演技が素晴らしかった。 とはいえ、和平交渉の場で父親を暗殺されたリヒテルの怒りも分かる。しかもバーム星10億人の命運という重責を背負い、地球攻撃軍の提督を担ったのだから、そのプレッシャーは大きかったことだろう。 そんなリヒテルが、唯一心を許す相手が、天才科学者であり、親友の「アイザム」である。リヒテルの普段の一人称は上に立つ者らしく「余(よ)」なのだが、アイザムの前だけは年相応に「俺」と使い分けており、小さな違いだが市川さんの演技が光った場面でもあった。 10億のバームの民の真の敵が、新たにバームの大元帥となったオルバンだと気づいたリヒテルは、オルバンを倒して妹のエリカを救出する。そして「エリカをおまえに託す」と傷ついた一也に妹を託し、地球人を殺した罪を償うべく木星に落ちていくという悲しい最期を迎えた。 黄金の長髪や背中の翼など、少女漫画的な要素をふんだんに含んだリヒテルのビジュアルは大人気だったが、個人的にはガルーダやハイネルに比べて筋肉質な体つきに見えたのもポイントが高かった。