インターネット台頭で「セレクトショップ100%では未来がない」 オリジナル家具にかじを切ったリビングハウスの「空間×時間」とは
◆商品力は十分条件、それ以上に大切な必要条件は「接客・提案力」
――多くの店舗を展開し、急成長したリビングハウスですが、競合他社にない強みは何でしょうか。 1つは、商品力が強いこと。同じ商品は他では買えないとはいえ、インターネットも含め数ある商品の中からリビングハウスの商品を選んでもらうため、オリジナル家具には特に力を入れています。 ただ、商品力はあくまでも商品を売るための条件で、加えて人による接客・提案力が欠かせません。 そのため、当社は従業員研修にものすごく力を入れています。 各地方で採用した中途人材でも、3カ月ごとに本社に集めて徹底的に研修します。 商品力と接客・提案力、どちらも磨いてきたからこそ今のリビングハウスがあると思います。
◆従業員の企画も積極的に受け入れる
――社長就任後、飲食店併設店舗オープンや百貨店再生など多様な事業に取り組んでいますが、狙いを聞かせてください。 会社としての差別化と成長のためです。 当社は社風として「挑戦と革新」を掲げているので、会社自体がいろいろなことに挑戦していくことで従業員にもどんどん挑戦してほしいというメッセージを込めています。 ――実際に、従業員発信でスタートした事業はありますか? ライフスタイルに関連するプロダクトを持っている会社のプロモーション支援事業は、従業員が企画してスタートしました。 これは、リビングハウスの店舗でお客様の商品、例えばコーヒーメーカーや冷蔵庫などの家電などを展示することで、リアル広告のような役割を果たします。 リビングハウスの店舗は全国で37店舗、仮に全店舗に置いたとすると1カ月で約40万人もの目に触れる計算になるので、大きなプロモーション効果が期待できます。 特に、直接ユーザーに商品を見てもらう機会が少ないD2C(※メーカーが消費者に直接販売する業態)の会社からのニーズが高いです。 今では会社全体の売上のうち、2割を占める事業にまで成長しています。
◆時間×空間の分野を代表する会社へ
――今後の事業展開や、企業理念に掲げる「空間時間価値先進国」についての展望を教えてください。 人間が過ごす時間には、睡眠や学習、移動、余暇など様々ありますが、それぞれに必ず「空間」が存在します。 僕は空間を良くする仕事というよりも、その空間で誰かが何かをして過ごす時間を良くしたい。だから今の仕事をしています。 そう考えると僕たちのビジネス領域は「空間×時間」なので、家具の販売以外にも様々な事業が考えられます。 例えば、余暇の時間を使って旅行をする人が心地良い時間を過ごせるように、実際に今、旅館ベンチャーに投資をしています。 このように、自分たちで事業を立ち上げることもあれば、出資などを通して間接的に事業に関わることも、場合によってはM&Aなどの手法を取ることもあるかもしれません。 父から受け継ぎ、今も大切にしている「お客様も社員も大事にする」という理念は守りながら、今後も空間×時間の領域のビジネスを拡張していき、その分野での代表格となる会社にしていきたいです。 ――後継者についてイメージすることはありますか? もちろん考えることはありますが、4代目も北村家に継がせるつもりはありません。 僕は父から引き継ぎましたが、自分が継いだ時と、自分が次の世代に継ぐ時の会社規模はかなり違うと思います。 「自分の子どもに継がせたい」という思いはまったくなく、「今後も任せられるだけの能力がある人に任せたい」と考えています。 その時が来たら、きっと僕も父と同じように「理念だけはそのまま引き継いでほしいけど、それ以外は時代に合わせて変えていけ」というはずです。
■プロフィール
株式会社リビングハウス代表取締役社長 北村甲介氏 1977年6月22日、大阪府大阪市生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、ファッション関連のベンチャー企業に就職。その後、海外の家具ブランドの日本法人に就職し、家具の配送や組み立てなどの経験を積む。2004年、26歳の時に父が経営する株式会社リビングハウスへ入社。地方の店舗立ち上げや複数店舗を束ねるマネージャーを経験し、2011年に33歳で代表取締役社長に就任。著書に『「かなぁ?」から始まる未来 家具屋3代目社長のマインドセット』(幻冬舎)がある。
取材・文/川島愛里