WBSS優勝の井上尚弥が語ったドネア戦勝利の理由と4団体統一王者の野望「僕はやっとボクサーになれた」
さて気になるのが、井上の“今後”についてである。 5階級制覇王者のレジェンドをクリアした井上は次に誰と戦うのか。 ライト級の3団体統一王者、ワシル・ロマチェンコなどを持つ世界的プロモーターのトップランク社と試合後に電撃契約を結び、次の2試合は米国を舞台に戦うことも決まった。 井上は、改めて対戦希望選手として拓真が敗れたノルディ・ウーバーリ(33、フランス)の名前を挙げた。 「ウーバーリ。挑戦者決定戦が決まっていて、条件とかもあるので一概に言えないが、気持ち的には拓真の仇討ちをしたい」 23日に米国でWBC世界バンタム級シルバー王者、ルイス・ネリ(メキシコ)の防衛戦が、前IBF同級王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトルコ)を相手に行われ、WBCは、この試合を挑戦者決定戦とすることを決めており、その勝者がウーバーリと対戦することになる。 ネリは、山中慎介とWBC世界バンタム級タイトル戦を2度戦い、ドーピング疑惑、体重超過による計量失格という許しがたい暴挙を犯した“悪童”として知られており、日本のリングからは事実上の永久追放となっている。 またロドリゲスは井上が英国グラスゴーでのWBSS準決勝で259秒で葬った相手。いずれも日本に馴染みのあるボクサーで、どちらが勝ってもウーバーリを一気に飲み込んでしまう公算が高い。 「ここまできたら最強を証明していく。バンタム級で敵がいないとなるまで戦うだけ。残っているといってもテテくらいですね」 井上がもう一人出した名前がWBO世界バンタム級王者のゾラニ・テテ(南アフリカ)だ。WBSSの準決勝でドネアと対戦予定だったが、肩を痛めキャンセルとしたという因縁があり、11秒の世界最速KO記録保持者で知られる。井上との対戦が実現すれば、秒殺王者同士の統一戦として話題にはなるだろう。 またドネアがスーパーバンタム級時代に敗れた元WBO、WBA世界スーパーバンタム級王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)が、元WBA世界スーパーフライ級王者のリボリオ・ソリス(ベネズエラ)と12月7日に米国でWBA世界バンタム級の正規王座決定戦を行うとの情報もある。井上が統一王者で、今回スーパー王者まで統一したため、承認料目当てのWBAが、また見境なく正規王座を作ろうと目論んでいるもの。リゴンドーはもう39歳になるが5年前の大晦日に来日して天笠尚と防衛戦を行い、その顔面を破壊した強打者。ロマチェンコに挑戦し途中棄権しているが、米国では名の通った存在だ。 だが、井上は、あえてネリとリゴンドーの名は口にしなかった。 「ネリは、あえて言わなかった。リゴンドーは、本当にバンタムに落とせるかもわからないし現実味はない。現実味のある選手の名前を言った」と説明した。 ネリの名をあえて出さなかった理由は、真吾トレーナーも含めて「ルール違反をしてきたボクサーとはやりたくない」と認めていないためだ。 だが、井上の目標は、日本初、ボクシング史上でも過去に4人しか成し遂げていない4団体統一王者にある。WBO世界同級王者のテテの次にもしWBC世界同級王者にネリが君臨していれば、避けることはできない相手にはなる。 また米国リングであれば、ネリの資格問題はクリアされ、WBCと関係のいいトップランク社ならば、マッチメイクされてもおかしくないカードである。 次の対戦相手は、ファンにとって興味を引く話題になっていくが、井上が求めているのは、ドネア戦同様、ヒリヒリした最強の戦いである。 「陣営はハラハラしたと思うが、これがボクシング。殴り合ってこそボクシングだという考えが自分の中にある。だから楽しかった。でも、なるべくこんな(目をカットするような)試合はしたくない。秒殺KO復活? 早いにこしたことはないですよ」 井上は一夜明け会見の最後を“秒殺KO復活宣言”でまとめた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)