ネット検索で「死にたい」子どもの悩み気づくには 学校で整備された1人1台端末を活用した自殺対策とは
子どもの自殺者数が過去最多水準
子どもの自殺が深刻化している。とくに子どもの自殺は予兆が見えにくいといわれ、こども家庭庁の調査では、自殺の危機や変化について「気づかれていなかった」とする回答が最も多く21%にものぼった(令和5年度「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究」報告書)。そんな中、文部科学省はGIGAスクール構想によって整備された1人1台端末を用いて、自殺対策を行うよう呼びかけている。その現状と可能性について、自殺予防の啓発、支援などを行うNPO法人OVAの代表理事・伊藤次郎氏に解説してもらった。 【写真を見る】死にたい気持ちを抱えている児童生徒に対し、プッシュ型の情報発信をブラウザ拡張機能「SOSフィルター」は7月リリース予定 子どもの自殺者数が過去最多水準となっている。警察庁の自殺統計によれば、2023年の小中高生の自殺者は513人で、過去最多だった2022年の514人から高止まりしている。 こうした状況を受けて、国は「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」を設置し、2023年6月に「こどもの自殺対策緊急強化プラン」を取りまとめた。 子どもの自殺に関する情報の集約・分析に加えて、自殺予防のための教育や相談・支援体制の整備のほか、自殺リスク早期発見のためにGIGAスクール構想下で整備された1人1台端末の活用が盛り込まれていることはご存じだろうか。
GIGA端末を活用した自殺対策とは
文部科学省も2023年7月、児童生徒からのSOSを早期に把握するため、1人1台端末を活用した対策を求める通達を各都道府県の教育委員会に出している。アンケート機能を活用して、子どもたちの健康観察を行ったり、相談に応じたり、心身の不調を早期に把握、対応できるツールなども紹介している。 警察庁の統計では、自殺の原因・動機として「学校問題」「家庭の問題」「健康上の問題」などを挙げているが、そんなに子どもの悩みというのは簡単なものではない。 複数の問題を抱えて追い詰められ、心身の健康状態が悪化してしまう子が多いように思う。もちろん具体的な内容は個々に異なるが「学校にも家にも居場所がない」といった孤独感は、ほとんどの子どもに見られる。 とくに難しいのが、「死にたい」といったような主観的な感情は、他者からは見えづらいということだ。教室で子どもの顔を見ただけでは、誰が死にたい気持ちを抱えているかはわからないし、たとえ死にたいという気持ちがあっても周囲に打ち明けられない子がほとんどである。 そんな子も、ネット検索で自殺に関連したキーワードを調べたり、行き場のないつらい気持ちをSNSに吐露することがある。 では実際、1人1台端末を使って、インターネットで自殺関連用語を検索するとどうなるか。学校関係者に行ったヒアリングによると、フィルタリングが設定されていて検索結果自体が表示されなかったり、管理者である教育委員会に通知されたりするなど、セーフサーチ設定や監視的な対応が多く取られていた。また地域によって、そもそも対策をしていないというところもあった。 NPO法人OVA(以下、OVA)では、こうしたインターネット上の検索行動に着目し、検索結果に検索したキーワードと関連した広告が表示される「検索連動型広告」を活用してきた。 自殺関連用語を検索した人にだけ広告を出すことで、目に見えづらい「死にたい気持ちを抱える人」を特定するとともに、広告でつらい気持ちを受け止める共感的なメッセージとともに相談を促し、インターネットで悩みを相談するハードルを下げて現実の支援機関につなぐ活動を10年ほど実施してきたのだ。 今では国や地方自治体の啓発キャンペーンにおいても、検索エンジン・SNSで自殺関連キーワードを調べると、それと連動して相談窓口が示されることなどは当たり前に実施されている。国内のおよそほとんどの検索エンジン・SNS事業者も自殺関連用語の検索に連動して相談窓口を紹介するなど、独自の対応を行うようになっている。 このような孤独・孤立状態にある人に対して、マーケティングの技術を用いて支えの手を伸ばす活動を「デジタルアウトリーチ」と呼ぶ。 デジタルアウトリーチは、孤独孤立・性暴力被害・DV被害・生活困窮・精神疾患などほかの領域でも活用が進んでおり、OVAでは地方自治体・非営利団体と協働して、20領域程度の検索キーワードの運用を行っている。