ネット検索で「死にたい」子どもの悩み気づくには 学校で整備された1人1台端末を活用した自殺対策とは
死にたい気持ちの中身には「孤独感」がある
今は、学校でも生徒向けに「SOSの出し方教育」や、教員などの大人向けに「SOSの受け止め方」の研修が積極的に実施されるようになっている。 子どもは大人の振る舞いを観察学習しながら成長し、行動する。一方、子どもは大人と比較して、相談することによって問題が解決したり、好転するといった経験が少ない。 であれば、SOSを出したことによる成功体験の共有も有用であると考えられる。大人も相談をすることに積極的意義を見いだし、その行動や効果について子どもたちに共有することも重要なのではないだろうか。 学校ではスクールカウンセラーが配置されるようになっている。海外の映画では登場人物が「カウンセリング」を受ける場面などが頻繁に出てくるが、日本の映画でそのような場面はほとんど見かけない。「相談すること」は「弱さを見せること」であると捉えられがちである。そのような考えは周囲にSOSを出すことを阻害している可能性がある。 いくら年齢を重ねようとも人は生きるうえで悩む。それは恥ずべきことではない。むしろ、悩むことは自らと向き合い、自己超越しようとする証左ともいえる。そして、相談することは他者に協力を要請しながら問題を解決していくビジネススキルである。 ハイリスクな子どもの背後にはハイリスクな親がいるといわれる。子どもの自殺の問題は、特定の子どもの個人的問題ではない。私たち大人の問題であり、社会の問題である。日本では4人に1人が自殺を考えたことがあるといわれる。つまり誰もが自殺に追い込まれうる。 死にたい気持ちの中身に「孤独感」がある。それは子どもも大人も同じである。 新型コロナ感染拡大以降、より人々はデバイスの画面を見るようになった。しばしばデバイスが、人と人とをつなぐインターフェースになっている。そして昨今、AIの発展が目覚ましい。今後さらに発展するマルチモーダルAIによって、AIは文字どおり人間のように話すようになるだろう。人間が人間と話す機会はますます減っていく可能性がある。AI時代において、私たちはどのように人とつながりを持ち、所属感を高め、望まない孤独を避けられるだろうか。 筆者はOVAの活動を通じて、多くの人の悩みを聞いてきた。人間が抱える問題は本当に多様だ。ただ人間にとって苦痛なことは、きっと問題や悩みそのものではない。苦しみを誰にも理解してもらえない、聞いてもらえないという孤独だと思う。子どもも大人もその点は変わらない。 講演会などで「自分にできることはありますか?」と質問されることがある。NPOに参加したり寄付したりすることもできるが、家庭で、学校で、職場で、地域で、困っている人がいたら声をかけ、話を聞くだけでいい。自分が悩んだら話を聞いてもらう。それだけで今日をなんとか生きられる。 一人の人間が多くをできないことはきっと幸運である。できないからこそ、弱いからこそ、支え合い、私たちはつながり続けることができる。 (注記のない写真:White Clover / PIXTA)
執筆:NPO法人OVA代表理事 伊藤次郎・東洋経済education × ICT編集部