親しかった人々がみんな「死んでいく」…伝説のストリッパーに刻一刻と迫る「タイムリミット」
会いに来てくれた同業者
96年8月の後半、一条を訪ねると、加藤がいた。 一条は黒いシャツの上にピンクのエプロンをしていた。私がエプロンを指して、「可愛いですね」というと、彼女は「そうでしょ」と笑って返した。 釜ケ崎恒例の盆踊りでは、日本舞踊を披露したという。この日はずいぶん元気そうで、いつもより声に張りがある。 「昨日、お客さんが2人来ました」 訪ねてきたのは、踊り子の滝優子と如月志乃だった。加藤によると、滝が前回、一条と会ってすっかり惚れ込み、如月を誘ってやってきた。一条に会った如月も感激で涙を流した。一条が言う。 「如月さんは名古屋のSMクラブの女王様。あたしの手をつかんで、会えてよかったって。名古屋まで舞台を見にきてくれと言われたけど、それは無理や。そんなことしたら大変や」 遠出には心臓が耐えられないと一条は説明した。一条、加藤、滝、そして如月。しばらく一条の部屋で話した後、近くの一杯飲み屋「但馬屋」でカラオケを歌った。 「あたしが歌ったのは、『命くれない』。その店のママに昔、教えてもろうた歌です。いつもは角川博の『女のきもち』。昨日はあれでなんぼやったんかな。4人で6000円ぐらいかな」 一条はオレンジジュースとウーロン茶を飲んだという。
2代目一条さゆり
このとき、2代目一条さゆりについても話題になっている。一条の話である。 「滝さんと2代目さんの間に、口に言えない何かがあったようや。滝さんは芸人の意地のようなものがあるから、ダメと思ったらダメ。2代目さんとほとんど口利かんかったみたい」 一条の話を受けて、加藤が説明する。 「2代目は頭で考えて演じるタイプ。滝さんは気で生きる、気で演じる。(2代目とは)タイプの違いです」 一条は自分と2代目との交流に触れた。 「一条さゆりの名で回るようになったって、あいさつに来たことがあって。楽屋で会いました。あたしがやけどしたときも見舞いに来てくれたんです」 実際は写真誌カメラマンの仲介で一条のほうから、東洋ショー劇場の楽屋に2代目を訪ねている。 一条はこの名で舞台に出たら、きっと警察に狙われると警告したという。 「やっぱりすぐに捕まったでしょう。会うには会ったけど、なんだかしらんけど、なかなかうちがのれんかった。気がのらない。無理やのれんって思った。結局そのままです。付き合いはなくなりました」 『「弱者に無関心すぎる…」マザー・テレサがお忍びで訪れた“西成・釜ヶ崎”で暴いた日本人の「本性」』へ続く
小倉 孝保(ノンフィクション作家)