30代、一度も交際経験がありません。恋愛や結婚、なぜ私にはできないの……? 高尾美穂医師に聞く
まずはスモールステップを重ねてみて
──交際経験がなく自信を持てないところから、どのように行動を起こしていけばよいでしょうか。 高尾: ご相談者さんは恐らく、交際経験がないというひとつのことによって自信を失っているわけではなくて、そこに至るまでの小さなことの積み重ねでちょっとずつ自信をなくしてしまったのではないかと思います。何か自信を失うことがあって、そうすると行動を起こしにくくなって、また自信をなくして、「自信がない」状態になっているのではないでしょうか。 「成功体験」が少ないことが自信の喪失につながっているという状況は起こり得ると思いますが、何を「成功」と定義するかはご本人のとらえ方次第です。例えば、学生時代にバレンタインチョコを渡せたことが成功体験になる人もいれば、チョコを渡した上でカップルになることを成功ととらえる人もいますよね。 ご相談者さんには、まずはスモールステップで進めていくことが大切なのではないかとお伝えしたいです。パートナーをつくることをいきなり目標にするのではなく、とりあえず連絡先の中に普段からコミュニケーションを取れる男性がいるような状況を目指す。そういうことから始めるのがよいのではないでしょうか。 おすすめしたいのは、これまでのルーティン以外の予定を入れることです。新しいコミュニティに入るとか、習い事をするとか、どこかに寄り道するとか、そういった非日常の予定を増やしてみるのはいかがでしょう。今まで出会ってきた人たちとは恋愛や交際に至っていないということは、これまでに出会っていない人と出会う必要があるということだと思います。新しい人と出会う場所を探して、ぜひ出向いてみては。
“面倒くさい”人間関係の中で
──20~30代の男女で交際経験がない方が増えているともいわれており、背景には「恋愛で傷つきたくない」「自由でいたい」といった価値観があるようです。 高尾: ある意味、人との交流を持たなくても過ごしていける時代だから、そういう話が出てくるのかもしれません。でも、そもそも社会で生きていく楽しみというのは、人との出会いの中にあると私は思っています。多彩な人たちと過ごす時間の中で、自分は何を考えて、どう生きるか。そこに喜びがあるのではないでしょうか。 人との付き合いって基本的に面倒くさいんですよ。世の中のすべての人が自分とは違う人なわけだから、思いどおりにはならない。人間関係は煩わしさを生むものではあるわけですが、やはりそれ以上の喜びであり楽しみでもある。例えば、「悔しい」といった感情を味わうとしても、自分が成長できる材料になり得る。そういう経験をするかしないかで、人生は全然違うものになると思います。 人間関係を築くのがおっくうになっているとしたら、それも「成功体験」の有無がかかわっているのかもしれません。成功体験にするためには、失敗したとしてもその取り組みをやめないことです。周囲の人とのコミュニケーションがちょっとうまくいかなかっただけで関係性を諦めてしまえば、それは「失敗」ということになってしまいますが、取り組みを続けていけば、「そういう時もあったけどうまくいった」という流れになることもあるはず。すべては途中経過に過ぎない、という考え方もできるのです。 恋愛だけでなくさまざまなコミュニケーションにおいて、どういう言葉を選ぶと相手が傷つくか、相手との距離感をどれくらい取るか、それは頭で考えているだけではわからない。うまくいかないことも含めて経験を積むことでしか得られないものがあります。そうやっていろいろな経験をしていくその先に、恋愛もあるのでしょうね。
■『娘と話す、からだ、こころ、性のこと』 著者:高尾美穂 発行:朝日新聞出版 価格:1760円(税込) 高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。
語り:高尾美穂 文:Kaori Terada