ホークスの「5年後も強いチーム作り」…ドラフトの理想形？

　本来、ドラフトとは、こうありたい。無言のうちに、周囲に向かってそう伝えているような「5年後も強いチーム作り」のためのドラフトになった。 　高校生の俊英をズラリと並べた指名ぶり。その先陣をきったのが、地元・福岡の大器だ。柴田獅子(投手・福岡大大濠高)は、投・打両面にわたるスケールの大きさと野球センスの持ち主だ。 　福岡大大濠高といえば、4年先輩にオリックス・山下舜平大という非常に大きな排気量のエンジンを搭載した逸材がいる。投げるパワーでは先輩が上を行くが、バッティングも含めた総合能力では、後輩のセンスが上回る。 　投打にボディーバランスがすばらしい。145キロ前後の速球に舜平大ゆずりのパワーカーブと鋭いスライダーの「投」に、さして力感は感じさせないスイングなのに、驚くような飛距離を生む「打」。この1年の成長力が驚異的だ。 　2位・宇野真仁朗(遊撃手・早稲田実業)、3位・箱山遥人(捕手・健大高崎高)。この夏の甲子園を沸かせた逸材たちをたて続けに指名して、ひたすら5年後に備えるホークス。この余裕が「強さ」だ。 　宇野真仁朗は「バットマン」としての2位評価。ポジションは、三塁手、二塁手の可能性もあり、あくまでも近未来のホークス打線でクリーンアップの一角を担わねばならないスラッガーだ。長打力だけじゃない。今夏の甲子園、相手外野陣がフェンスを背負うほど深く守っているのを確認すると、三遊間を抜いてレフト前に転がし、あわてて前進してくる左翼手を尻目に、まんまと二塁打にしてみせた「茶目っ気」が野球センスとしてキラキラ光っていた。 　1年秋から常勝・健大高崎高のレギュラーマスクを全うした箱山遥人捕手の経験値の高さも、間違いなく3位指名に値する。 「捕手」はそこが大切。高いレベルの実戦経験を、どれだけ多く積んでいるか。そこに、ゴリゴリの「本気勝負」が懸かっていれば、なおさらである。プロ野球捕手としての「嫁入り道具」の引き出しも無数に持っているはずだ。 　この夏、驚いたのが守備ワークの敏捷性とスローイング能力の上達。四軍まであるホークスだが、すぐにでも、ウエスタンの実戦で使えるディフェンス能力と見ている。 　5位・中村奈一輝(遊撃手・宮崎商業高)、6位・有馬恵叶(投手・聖カタリナ学園高)。この2人も、今夏1試合だけだったが、甲子園の土を踏んだ。 　中村遊撃手が指名された瞬間、ヤクルト、横浜DeNAのテーブルあたりから「ウワッ……」というつぶやきが聞こえそうだ。5位指名で、この身体能力の塊を狙っていた球団は2つや3つではなかった。甲子園の実戦で見せてくれた長身をしならせるような捕球→送球の連動。実はホークスは「投手」としての含みも持たせて、中村遊撃手を指名した。 　今のスリムな体形に、投手らしい均整を保ちつつあと10キロ、15キロ、筋肉量が増えたら、どんなボールを投げられるのか？　現状が140キロ台前半なら、軽く150キロクリアだろう。本来、こうした「想像力」が支配するのがドラフトなのだ。 　有馬投手の魅力も、やはりそうした想像力をたくましくできることだ。前評判は聞いていたが、こんなに魅力的な素材とは思わなかった。これだけのサイズがありながら、フォーム全体がまるでバラつかず、リリースのフィニッシュで踏み込んだ左足に体全体が乗っていく。このメカニズムだけでも、十分「買い」だ。