ウクライナ軍、クリミアの宇宙通信施設をATACMSで攻撃 衛星誘導にも利用か
高い山があり、晴れの日が多く、無線通信の混雑があまり起こらず、南方に位置するウクライナ南部クリミア半島は、ソ連の宇宙通信システムにとって理想的な場所だった。 1959年、クリミア西部イェウパトリヤ(エフパトリア)で、ソ連の大規模な宇宙通信施設の建設が始まったのはそのためだ。施設は10基の巨大な上方指向型パラボラアンテナのほか、電源施設、管制センターなどから成る。 ソ連の広大な宇宙通信網の一部を構成していたこの施設は「NIP-16」と呼ばれる。NIP-16は1960~70年代の月探査機や火星探査機との通信用に設計されていたが、その後、当初の0.92GHz帯に加え複数の周波数帯域に対応するように設備が拡張された。現在はロシアのリアーナ電子情報収集(ELINT)衛星システムのロトスS偵察衛星や、ロシア版GPSのGLONASS(グロナス)の衛星との通信も行われているとみられる。 ロシア軍が2014年にクリミアを占領した際、ロシア政府がNIP-16をその熟練職員数百人を含めて管理下に置いたのは、そうした通信機能のためだ。昨年12月以降、ウクライナの前線から150kmかそこら南にあるこの貴重な宇宙通信施設を、ウクライナ軍が少なくとも2回ミサイルで攻撃したのも、おそらくそのためだろう。 直近の攻撃は23日に行われた。ウクライナ軍はNIP-16に向けて米国製のATACMS弾道ミサイル少なくとも4発を発射した。敷地では火災が発生し、夜どおし続いた。米プラネット・ラブズ社の24日の衛星画像には、広大な施設の地面に爆発の跡らしいものが見える。 NIP-16とその代替困難な科学機器が損傷したとすれば、科学者たちはぞっとするに違いない。この施設は、ソ連や米国などが宇宙探査に大量のリソースを投入していた時代に、ソ連海軍の徴集兵らによって建設された。 ただ、NIP-16は正当な軍事目標でもある。もとともあった無線送信機8基と無線受信機2基は一時的に稼働を停止しているのかもしれないが、ほかの無線機は、リアーナやGLONASSの衛星を含む偵察・監視や通信、航行用の衛星との間で信号の送受信を行えるからだ。