<南アフリカ>貧困と犯罪 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
アパルトヘイト撤廃後、激増したのが都市部の犯罪率だった。「世界で一番危険な都市」の烙印を押されるまでに荒廃してしまった経済の首都ヨハネスブルグで、事件現場に真っ先に駆けつけるチームである「フライング・スクワッド」の警察官たちと共に、1日を過ごした。 「XXXXで強盗が発生」 無線連絡が入ると同時に、ハンドルを握ったインド系の警官がアクセルを踏み込んだ。急ブレーキに急発進に急ハンドル、後部座席に乗った僕の体が前後左右に激しく揺さぶられる。市街地での気違いじみたその運転で車酔いをおこした僕は、 危うく吐き出しそうになるほどだった。しかしこれだけすっ飛ばしても、現場からはすでに犯人の姿は消えていた。
「現行犯逮捕するためには一刻を争うんだ」 車酔いで青くなった僕の顔をみながら、チームの一人が苦笑いを浮かべて言った。 強盗、殺人、空き巣に麻薬売買...昼夜を問わず犯罪はおこる。パトロールカーのけたたましいサイレンは、ひっきりなしに鳴り続けた。
アパルトヘイト時代の居住区制限がなくなり、自由に移動できるようになった黒人たちは、職を求め大量に都市部へ流れ込んだ。しかし低迷する経済のもと、まともな仕事につける者などごく一部。ナイジェリアやジンバブエなど他のアフリカ諸国からやってきた移民たちも相まって、貧困層は爆発的に膨れ上がった。殺人やカージャックなど悪質な路上犯罪も日常茶飯事になり、ものの数年でヨハネスブルグは犯罪の巣窟と化してしまった。 南アフリカに限らず、どんな国でも貧困と犯罪は切り離せない問題だ。犯罪を減らすには貧困問題を解決しなければならないが、それは至難の技でもある。ヨハネルブルグのように貧困人口が増えるほど、その対策は難しくなっていく。いくら逮捕しても犯罪は起こり続ける。フライング・スクワッドと犯罪者たちの間で続くのは、終わりのないいたちごっこのようにも思えた。ここまで荒れ果てた町につける特効薬など、ありはしない。