県知事クラスの藤原為時でもちっぽけな存在<平安貴族>を「大河」で描くのは…「武士のドラマが好き」な本郷和人がびくびく記す『光る君へ』の正直な感想
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第九話は「遠くの国」。東三条殿に入った盗賊の正体は直秀ら散楽一座だった。直秀らは道長(柄本佑さん)の命で検非違使に引き渡されるが――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「正直な感想」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは? * * * * * * * ◆「本郷さんは武士が好きだよね」 『光る君へ』は平安貴族を中心としたドラマです。なので、いわゆる武士という存在はでてきません。 一方、ぼくに対して「本郷さんは武士が好きだよね」という方がたまにいらっしゃる。 実際、それはそう。ただ、それに対して「武士が好きではいけませんか」という反応をしては、品もなにもありません。 今回、そのあたりの背景を説明したいと思います。
◆中世以降に社会の変動を牽引したのは貴族か武士か 日本史、とくに東京の研究者は、武士の役割を重視しすぎてはないか。 そう注意を喚起されたのは、社会学者で国際日本文化研究センターの所長を務めていらっしゃる井上章一先生です。先生の『日本に古代はあったのか』(2008,角川選書)などはほんとうに名著ですので、ぜひ一読下さい。 さて、この本の中にも記されている「日本史における京都・朝廷の重要性をもっとしっかり認識すべきである」という主張は説得力があり、特に東京生まれ・東京育ちである自分は、その視野の狭さを大いに反省したのも事実です。 実際、そこでの反省などもあって、ぼくも「日本の歴史は均一ではなく、『西高東低』が基本的なムーブメントである。東が優位に立つのは、早くても江戸後期、文化文政の文化が誕生して以降であろう」というような歴史解釈に立っています。 ただし、「中世以降に社会の変動を牽引したのは貴族か武士か、朝廷か幕府か」ということになれば、ぼくはやはり武家勢力であると考えます。 というのは、良くも悪くも武士は「在地領主」という学術用語が示すとおり、地方の代表と見なせるのに対し、平安時代後期からの貴族には、庶民との接点を見出すのが困難だからです。
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