「香川や高知には行かないでください」というメッセージに…四国の観光PRが抱える「思いがけない問題点」
大都市集中のインバウンドブームの問題
山口インバウンドの数という話に戻ると、インバウンドブームの今、日本人のカレンダーとは全く関係なく外国人がやってくるようになりました。観光業界では、長らく週末とゴールデンウィークや年末年始などの休日に旅行需要が集中する問題があり、「休みの平準化」の議論がずっとありましたが、インバウンドの増加によって、結果、休みの平準化に近い現象が起きていませんか。 星野起きています。しかし、コロナ禍前に問題だったのは、各地域が直行便を運航しており、特定の国にターゲットを絞ってしまうということでした。たとえば、中国からたくさん来てもらいたいから、上海と地方空港を直行便で結ぶのです。そうすると、今度は旧正月だけ混むような状況がでてきます(笑)。 インバウンドが平準化に結び付くためには、特定の国ではなく、全世界から来てもらう必要があります。オーストラリアの夏休みのあとに、中国の旧正月があって、そのあとにシンガポールの大型連休があって……というように全世界をターゲットにするべきです。 山口コロナ禍後のインバウンドの復活においては、中国などのアジアに偏ることなく、全世界から観光客が来るようになった印象がありますが。 星野大都市では、中国からの観光客がまだ戻ってきておらず、欧米圏から来た人が比率的に高まっているので、そう見えるのかもしれませんね。 山口それで、よりインターナショナルになったように感じるんですね。日本における観光客の目的地という意味では、コロナ禍前と比較していかがでしょうか。 星野コロナ禍前は文化観光中心で、東京・大阪・京都・北海道・福岡の都市圏で、全国のインバウンド数の65%を集めていました。これがコロナ禍後は75%に増えています。 山口より偏っているんですね。 星野文化観光への集中が高まっているのです。それも大都市圏への集中が高まってしまっている。私がよく担当している、高知・福井・山口など、インバウンド数ビリ5つは全部足しても1%くらいしか来ていません。 山口どうやったらこういったオーバーツーリズムにならず、インバウンドが全国に分散するようになるのでしょうか。 星野いくつか方法はあると思いますが、まずは地方の空港に直行便を飛ばす、というのはやめた方がいいと思います。成田・羽田・関空という日本のハブ空港と地方空港がLCCで結ばれると、世界中がターゲットになります。 例えば高知の空港から関空までは飛行機で30分で行けます。関空からは世界中に飛んでいますから、世界中の人が関空に来れば、すぐに高知まで行けるのです。このハブ&スポーク戦略を明確にし、安く地方へ行けるようにするのが大事だと思います。 そしてもう一つが自然観光。現在34の国立公園がありますが、「日本の国立公園は面白い」と日本の国立公園のサービスのブランド化をすべきだと私は思っています。 たとえばアメリカのサンフランシスコは、かつて観光で停滞した時期がありました。そのころ、サンフランシスコから車で3~4時間ほどの場所にあるヨセミテの国立公園などが注目され、そこを訪れる人が伸びてきたら、サンフランシスコの訪問者が増えたのです。国立公園が注目されることは近隣の都市にとっても悪い話じゃありません。 一度サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジに行った人が、もう一回写真を撮りに行きたいとはあまり思いませんが、ナパやヨセミテに行ってみたい、というときにサンフランシスコはゲートウェイになります。ヨセミテで4日過ごして、ガイドをつけて楽しんで、サンフランシスコに帰るならサンフランシスコで2泊くらいしようかな、となるじゃないですか。 山口大都市の周辺にある自然に目を向けることは大切ですね。 星野みんな自分の地域や県などに一生懸命になっているのですが、周辺都市や地域にも目を向けながら、包括的にPRをしていくことも必要だと思います。高知のある四国は4つの県がありますが、4つの県がバラバラの予算を立てて、自分たちしかPRしていません。「徳島に来てください」とプロモーションを打つとき、裏側には「香川や高知には行かないでください」というメッセージがあるわけです(笑)。 観光客の目線に立てば、せっかく徳島に行くなら、少し足を延ばして周りの県にも行ってみたい。地図を見たら、ただ一つの島があるようにしか見えないんですから。北海道には行ったから、今度は四国という島に行ってみようとなったときに、四国には色々ありますよ、とPRできたほうが、圧倒的に集客力は高くなります。 本来は、4つの県で予算をそれぞれ持ち寄って、DMO(観光地域づくりを中心的に担う法人組織)に予算と権限を与えて、「4県平等に」といったことは考えずに、四国という島を世界でブランディングするにはどうすればよいか考えるべきです。 北海道は自治体がひとつで分散しないので、先ほどのインバウンド数全国トップ5に入っているのです。 同じ島でも四国は4つ、九州は7つの県がありますが、これを何とか一緒にPRできるようにしたほうが私は長期的にはいいだろうと思っています。 後編記事<「日本は観光立国になるほど落ちぶれていない」「観光は環境破壊になっている」…観光産業に対する「偏った印象論」に対する反論>へ続く
山口 由美、星野 佳路