吉岡里帆の向上心は10年前と不変
◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」 女優の吉岡里帆(31)が、昨年11月公開の映画「正体」で第49回報知映画賞の助演女優賞に輝いた。高校卒業後に歯科助手、居酒屋、ホテルの配膳などアルバイトを掛け持ちして、地元の京都から深夜バスで東京のオーディションや演技講習に通った苦労人。表彰式では試行錯誤の日々を振り返り、涙ながらに喜びを語った。 初めて取材したのは10年前の2015年10月。新宿の地下街の片隅で行われたカレンダー発売イベントだった。取材の記者はわずか5人ほど。今後の抱負など、ありきたりな質問にも、目を輝かせて「映画やドラマに出たいです」と語っていた。水着写真のあるカレンダーで、当時22歳の吉岡は駆け出しのグラビアアイドルという印象だったが、実際に言葉を交わして、熱意のある若手女優だと認識を改めた。 最後に将来の夢を尋ねると「楽しく生きて、おもろいオバチャンになりたい」と無邪気に答えた。芝居に対する意欲に加えて、場を盛り上げる遊び心にも感心した。数か月後、NHK連続テレビ小説「あさが来た」のメガネっ子・田村宜(のぶ)役で一躍、ブレイクしたのも納得だった。 昨年、報知映画賞の受賞インタビューなどで久しぶりに取材する機会に恵まれた。印象に残ったのは「自分が必要とされるのは奇跡的なこと。だから誰よりも、その作品のファンになろうと毎回、思ってます。それがなければ、自分の価値はない」という意欲的な言葉。全国区の人気女優として脚光を浴びても、芯の部分は新宿の地下街で会った頃と変わっていなかった。 女優としての強みは「自分の足りなさを知っていること」と語る。慢心せず、高みを目指すということだろう。それを聞き、自分を省みて背筋が伸びた。(芸能担当・有野 博幸) ◆有野 博幸(ありの・ひろゆき)2001年入社。映画・演劇担当キャップ。芸能取材は12年から。報知映画賞選考委員。
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