旅の移動手段、飛行機よりもエコな列車が人気復活。
いま注目の言葉、それは"train bragging=鉄道自慢"。鉄道オタクのことではない。地球環境保護の観点から、旅行にエコな鉄道を使おうとする動きだ。炭素排出量を気にする今日のノマド(遊牧民)たちは、列車で長距離をゆっくり旅するこそが究極の贅沢と感じている。 上海、プラダの歴史を巡る旅へ。 2023年6月末、シシィとヴィレアク(1)はパリからウィーンへ向かう夜行列車に乗り込んだ。だがふたりが目指しているのはオーストリアの首都ではない。共にIT業界で働いていた30代カップルは、仕事を辞めて1年間アジア旅行をすることにした。「2年前だったら飛行機で行っていたかもしれません。ですが、環境保護のことを思うとね」とふたりは鉄道の旅を決意した動機を語った。こうして、オリエント急行のルートをたどってイスタンブールまで行き、そこからかつてのシルクロードを通り、コーカサス地域を経て中央アジアへと向かう。最終目的地のバリ島には2024年春に到着予定だ。ウズベキスタン、中国、ベトナムなどの国を通過しながらあちこちで長短の滞在をするつもり。最終的には15,000キロの旅となる。シシィとヴィレアクのように、フランス、ヨーロッパ、そして世界各地へ行く手段として列車を選ぶ旅行者はますます増えている。その証拠が鉄道のチケット販売数の伸びだ。 値段が高すぎるという批判にもかかわらず、フランス国有鉄道は毎年、夏の売り上げ記録を伸ばしている。2023年7~8月の期間は、2022年同時期よりも10%多い約2,400万枚のTGVチケットを売り上げた。列車で旅行する人が増えているのは、環境への配慮という要因が大きいがそれだけではない。旅の目的地だけでなく、そこへ行くまでの過程も旅として楽しむ人が増えているのだ。列車の旅を専門とする旅行代理店、「Discovery Trains(ディスカバリー・トレインズ)」の社長、ロール・ジャケも人々の意識の変化を指摘する。「鉄道ファンやエコ志向の若者だけでなく、列車の旅はもっと広い層の心を捉えるようになりました。列車の旅を選択することは、ゴミの分別やプラスチックの使用量を減らすのと同じように、誰もが環境のためにできる、ちょっとしたことなのです」