目黒蓮「海のはじまり」が20代より40代以上に“刺さる”深い理由
正解のない選択の連続
そもそも水季は、妊娠がわかったときは中絶するつもりで、夏から同意書を受けとります。ところが、産婦人科に置かれたノートへの書き込みを読んで、夏に知らせず、彼とは別れて海(泉谷星奈)を産む決意をしました。産むべきだったのか、堕ろすべきだったのか。産んだのちでも夏には知らせるべきだったのか、知らせなくてよかったのか。どちらを選んでも、だれかに迷惑がかかり、さまざまな軋轢が生じ、選んだ本人も幸福と不幸、やすらぎと苦痛を同時に背負います。 しかも、産むという選択をした本人はがんで命を落としてしまい、入り組んだ状況だけが残され、関係する人たちはまた、正解のない選択を迫られていきます。 したがって、このドラマで描かれる状況も、セリフも、その都度、正解かどうかわかりませんが、だからこそ、一つひとつのセリフが人生のある局面を鋭く描写し、時に心に染みわたり、時に心をえぐるような鋭さが感じられるのでしょう。 第9話では、最初は夏と結ばれて海の「母親」になるものと考えていた弥生が、もうこの世にいない水季に嫉妬して孤独を感じ、夏に別れを切り出しました。この告白に夏は、戸惑って声を震わせながらも「3人が無理なら、どちらかが選ばなきゃいけないないなら、海ちゃんを選ぶ」と答えました。 そうはいっても、「選ぶ」のはそんなに簡単ではないということを、第10話で夏は、痛いほど思い知らされます。弥生と別れ、海と2人で暮らす決意をした夏は、まず、会社の先輩の藤井博斗(中島歩)を飲みに誘って相談します。すると藤井は、娘を転校させたくないから転職も考えているという夏に、「親がストレスでボロボロになったら子供に二次災害だよ。収入、減らない保証あんの? 自覚とか責任とか、そんなんで子供育たないよ」と意見しました。 たしかに正論です。図書館で働いていた水季の元同僚で、水季と海に特別な思いをいだく津野晴明(池松壮亮)も、海と2人で暮らすと送ってきた夏のLINEに、「1人でどうするんですか?」「子育てなめてません?」などと返信しました。 でも、夏が海に転校してもいいか聞くと、海は悲しげにこう言いました。「ママ死んじゃったのに? ママいなくなって、海、いろんなこと変わったのに、まだ海は変えなきゃダメなの? なんで?」。このセリフが胸に迫ります。藤井の意見は冷静で的を射ていましたが、海の声もまた、彼女の内的真実です。