WEST.、CDデビュー10周年 ストレートなメッセージを伝え、リスナーに力を与え続けてきた歩み
率直な歌詞がまっすぐ心に届く「僕らの理由」
2021年5月に発表されたのが、「僕らの理由」だ。WEST.の16枚目のシングル『サムシング・ニュー』の初回盤Aに収録されており、初参加となった音楽フェス『SUMMER SONIC 2023』でも披露された。 本楽曲は「春じゃなくても」とはテイストの異なる、パワー溢れるロックナンバー。グループの公式YouTubeで公開されているライブ映像では、冒頭からメンバー全員がヘッドバンキングをしながらメロディに乗り、全身で曲のエネルギーを楽しんでいる様子が伝わってくる。 歌詞には、〈僕〉と〈あなた〉が度々登場する。他者と自分を比べ、落ち込んでしまった〈あなた〉に、渾身の力を込めて届けられる〈僕〉からの言葉。〈あなたが何度 あなたを嫌っても 僕はあなたのことを嫌いになれないよ〉〈あなたの涙は あなたゆえの涙で 僕はあなたの魅力の一つだと思う〉など、あまりにまっすぐに綴られた歌詞を聴いていると、他の誰でもない自分に向けられている言葉だと信じさせてくれる。そして歌詞の持つ力が存分に引き出されるのは、楽曲のメッセージをWEST.自身が体現し歌声で奏でているからこそだ。
優美な詞の中に込められた繊細な温もりが胸を打つ「つばさ」
柳沢による3曲目の楽曲提供は、8枚目のアルバム『Mixed Juice』のラストナンバーとして収録された「つばさ」。疾走感のあるメロディには時折ギターソロの伴奏が織り交ぜられ、しっとり丁寧に、そして力を込めて歌い上げられている。 悲しみや苦しみをより多く経験した者は、人の想いに触れやすくなる。信じるものも大切にするものも、感じ方も千差万別。でもそれぞれ違っていていいし、正解も誤答もない。相手のすべてを理解することはできなくても、相手のことを知ろうとし、想いやることはできるはず。些細なものに感じられても、そんなありふれているような当たり前こそが、誰かの心を救う“愛”たるものだ。 「つばさ」を聴いていると、日本語詞の美しさ、豊かさを痛感させられる。当たり前のように感じられていた世界の光景にこそ、愛が溢れていることを実感する。そしてその世界とともに、そんな世界に生きる自分のことも肯定できるようになる。繊細な歌詞の中には、じんわりとしたあたたかさや包容力が宿っているのだ。WEST.の楽曲には、見落としてしまいがちな大切なものを照らしてくれる、そんな一面もあるように思う。