【日本はもはや「お買い得」の国】日産買収に動いた台湾・鴻海、「ホンダ・日産」が試金石となる理由
アジアの企業にとっても日本企業は「買い」
ただ、今回ホンハイが日産への資本参加を考えた背後には、日産株の安さがあることは大きい。ホンハイは毎年数千億円の利益を生み出し、手元の自由に動かせるキャッシュも1兆円を超える。買収となれば銀行の融資も期待できる。 日産の時価総額は2兆円ほどだとされるが、ルノー保有株を全部取得したとしても6000~7000億円の出費で済む。巨大工場の建設に1兆円を投じるホンハイにとっては、事業多角化のための合理性のある投資であり、高くはない買い物なのである。
日本企業や日本株、日本の土地さえも「お買い得」というのはすでに海外のファンドなどに狙い撃ちにされていることで誰もが気づいているが、アジアの企業にとっても段々と日本がターゲットになっていることを日本人に改めて実感させる意味が、このホンハイの買収の動きにはある。 台湾積体電路製造(TSMC)の日本進出とホンハイの買収騒動は簡単には並列で論じることはできないが、TSMCに1兆円以上の公的資金を投入してでも日本に進出してもらわなければならなかったこと、シャープ、東芝、日産という日本経済をかつては牽引したザ・日本企業という会社が台湾企業に「ちょっと買ってみようか」と思えるほどの相手になっていることは重く受け止めなければならないだろう。
廉價日本(お安い日本)
かつて日本は台湾を支配し、戦後においても日本経済が台湾を含めてアジア経済を牽引したことは紛れもない事実だが、その時代がすでに過ぎだっただけではなく、逆にアジアの経済に支えられ、買われていくことは、日本人としては残念だが、現実としては受け入れざるを得ない。 企業買収とはやや異なる部分ではあるが、台湾の不動産は日本の不動産をはるかに凌ぐ価格で高騰している。もちろん台湾社会では若者が家を買うことができないことが問題化しているが、一方で、台湾での不動産高や過去最高の株高などを背景にキャピタルゲインを得ている中間層が、セカンドハウスとして日本の不動産を次々と購入しており、台湾資本の銀行や不動産会社の日本進出も活発である。 1年ほど前、台湾を代表する経済誌「天下雑誌」が「廉價日本(お安い日本)」というタイムリーな特集を組んでいた。彼らの目には今の日本の物価はかつて日本人が円高時代に買い物に狂奔した欧米諸国の物価のように映っているのであろう。 台湾の中間層も、台湾内よりも日本のほうが旅行コストも低くて優れたサービスが受けられるということで、気軽に日本へ週末旅行などに出掛けている。24年の台湾人の日本訪問者の人数は600万人を突破することが確実視されている。人口2300万人の台湾から日本へこれだけの人数が来るということ自体驚くべきことだ。 我々は過去のイメージで中国人による「爆買い」をどうしても想像してしまうのだが、「爆買い」という現象についていえば、台湾や、香港、韓国、シンガポール、そして最近はタイなどアジアの富裕層や中間層にも拡大していることはしっかりと認識しておくべきだろう。国民一人当たりの国内総生産(GDP)値においては、日本はシンガポールや香港にはすでに抜かれ、韓国にも超えられ、台湾にも来年には超えられるとみられている。