ホンダの次世代EV「ゼロシリーズ」への期待と不安…現状のデザインと販売システムで、テスラやBYDに勝てる?
● 未来からバックキャストした 具体的な戦略が見えない まずは、本稿でも触れたデザインだ。 「クルマは見た目が100%」という表現が、ユーザーの購入動機に対して使われることがある。カッコいい、素敵、高級、かわいい、といった造形物に対する形容が、消費者の心を揺さぶる。 そうした観点でサルーンを見ると、ホンダがゼロシリーズの定義としている「『Thin, Light, and Wise.』の具現化」が目立ち過ぎており、デザインとして見た場合に素直に表現できる「形容詞」がうまく見つからない。 サルーンはかなり高級な価格設定であり、多くの販売台数を見込めるモデルではない。サルーンはあくまでもゼロシリーズのシンボリックなモデルとして、次世代感や異次元感を強調するという、ホンダの意図は十分理解できる。 また、テスラやBYDに対する宣戦布告としてのインパクトが必要なのかもしれない。 果たして、ユーザーは量産型サルーンのデザインをどう感じ、そして乗ってみよう、買ってみようという購買行動につながるのか? ゼロ SUVについても同じことがいえる。60年代から70年代にランボルギーニのツアラーモデルとして量産されたエスパーダを、現代風にSUVへ進化したようなイメージがある。 こうしたアクの強いデザイン手法は、テスラ「サイバートラック」や韓国ヒョンデ「IONIQ 5」などでも見て取れるが、そうした発想がホンダに見合うのか。 ゼロシリーズのサルーンと同SUVについて、販売店やユーザーがどういう消費行動を取るのか、興味深いところだ。 もうひとつ、大きな不安は販売システムだ。 昨年末のホンダ・日産・三菱自動車の共同会見の際、筆者はホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長に「(2ブランド全体としての)販売網の再構築の可能性」について聞いた。 これに対して両者とも明言は避けたが、既存の販売網とエネルギーマネジメントサービスを融合させたバリューチェーンとして変革は必須といえる情勢だ。 自動車メーカーにとっての実質的な顧客はユーザーではなく、新車を卸売りする販売会社だ。その再構築にはさまざまなハードルがあることは間違いない。 その上で、最大のハードルは、環境対応、渋滞対応、事故軽減(理想的にはゼロ)を目指すために、生産・販売台数を適正化(抑制)することだ。 そうした抜本的な販売システムの変革の中で、エネルギーマネジメントサービスも当然、多重的に連携することが求められる。 だが今回、ホンダはゼロシリーズにおけるエネルギーマネジメントサービスのイメージ図を公表したものの、ビジネスモデルとしての変革という視点で見ると具体性に欠けている。 エネルギーマネジメントサービスは、従来の自動車販売・修理・二次流通の事業領域にとどまらず、地域社会全体との連携を出口戦略に描くべきで、大きなくくりの話であるはずだ。 そうした事業者として目指す出口からバックキャスト(逆算)する発想が乏しいと感じる。 バックキャストからのホンダの将来像がよく見えないことで、ゼロシリーズのサルーンやSUVのデザインが、筆者として腑に落ちないのかもしれない。 見方を変えると、ホンダとしていま最も必要なことは、自動車産業のみならず、大きな社会変革を見据えた、より具体的なビジョンを社内、販売企業、そしてユーザーの間で共有することだと強く感じる。 端的に表現すれば、ホンダというブランドを今後、どう育てるかだ。 ホンダ第二期創世期として、ゼロ出発という視点での新たなるブランド戦略が必要だ。ゼロシリーズの販売が始まる26年を前に、今年がホンダにとって正念場になる。
桃田健史