2024年度のインターハイは高校サッカーの進化を感じる大会
昌平の初優勝で終えた今年のインターハイは高校サッカーの進化を感じる大会となった。ファイナルを戦った昌平と神村学園の両校は技術、判断を生かしたテクニカルなサッカーが代名詞だが、福島の地で見せた戦いぶりは“上手い”の一言だけでは語れない。 【フォトギャラリー】神村学園 vs 昌平 大会前のフェスティバルで神村学園の主将を務めるFW14名和田我空(3年)はこんな言葉を口にしていた。「神村学園は、練習で走っているの?とよく聞かれるので世間のイメージを変えたい。試合で足元を見せながら、走りの部分を出せたら今年は日本一に近付けると思っている。今年はフィジカル的に去年一昨年とは違うぐらいやっている。筋トレだけでなく、走りもえげつないぐらいやっているので、自信に変えていきたい」。 「無失点を目指してやろうとは思っていない。もちろん目指すべきなのですが、失点しないように失点しないようにとやっているチームではない」。有村圭一郎監督の言葉通り、これまでは“打ち合ってナンボ”のチームであるが故に接戦での勝負弱さが見え隠れしていたが、インターハイで見せた姿は全く違う。上手さのプラスアルファとして身に付けてきた走力、筋力を生かしたプレーで一人ひとりが1対1や競り合いの局地戦でタフに戦う。 準決勝で対戦し、度々ゴールを作りながらも0-1で敗れた米子北の中村真吾監督が「なかなか少ないチャンスを物にするのは難しいぐらい、神村の守備はちゃんと身体を張っていた。ゴールを守るというところで言うと、プレミアの時よりも凄く想いを感じました」と振り返ったように神村学園の守備は非常に強固。「守備陣が無失点に対する拘りが強いですし、絶対に俺がやるんだと自覚が芽生えて後ろから発信してくれているのが大きい」(名和田)ことも相まって、無失点のまま決勝まで駆け上がった。最後は3点を許し、涙を飲んだが、これまでとは違うまた新たな神村学園の姿を印象付ける大会になったのは間違いない。 上手さだけではないチームに進化を遂げているのは日本一に輝いた昌平も同じだ。神村学園と同じで上手さに定評があったが、これまでは試合を優勢に進めながらもあと一歩のところで涙を飲む試合も多かった。だが、今年は違う。チームとして行なうフィジカル強化に加え、個別で肉体強化に励む選手も多く、デュエルでそう簡単に負けない。「玉田(圭司)監督になってから凄く走るようになった」と口にするのは主将のMF8大谷湊斗(3年)でピッチに立つ選手全員が走れるから最後までタフさも継続できる。 試合序盤に連続ゴールを奪った準決勝の帝京長岡戦は今の昌平を象徴するゲームだった。1点を返され、後半は押し込まれる時間も長かったが、試合終盤までタフに戦い続けた結果、同点弾を許さない。試合後、帝京長岡の古沢徹監督は「足を先に入れて、ちゃんとプレーエリアを確保してからヒットしていた。上手に身体を使える」と昌平の守備を賞賛。谷口哲朗総監督も「うちは春先と比べてかなり強度が上がっている。でも、昌平がそれ以上に強度が高かった。神村学園も同じでどこも上手さに強さが備えたチームが増えている」と続けていたのが印象的だった。 谷口総監督の言葉通り、ベスト4まで進んだ帝京長岡も上手さのプラスアルファを目指してきたチーム。近年、練習前後の補食を行ない、フィジカル強化に励んできた理由について古沢監督はこう明かす。「選手権もベスト4にたまたま何回か行かせてもらって、青森山田さんや山梨学院さんと対戦し、技術ベースにもう少し、もう一つ必要だと学ばせてもらった。自分たちの技術ベースを持ちながら、球際の部分や競り合いの分でもせめて相手と対等に戦えないといけない。そこは積み上げてきた部分」。 3回戦の青森山田戦はそうした取り組みの成果が表れたゲームで、パワフルな攻撃を仕掛けてきた相手に競り勝ち、セカンドボールを拾うと地上戦に置き換え、帝京長岡らしい華麗なコンビネーションから見せ場を作った。もちろん強度が高くても自分たちの物にしたボールを失っていてはチャンスを物にできない。上手さを最大限に生かすための強度であって、両方が求められる。上手さを追求してきたチームがこれまで全国大会で得た課題をブラッシュアップし、“上手いだけじゃない”チームに進化を遂げた成果が表れたのが今年のインターハイだと言えるだろう。 (文・写真=森田将義)