「中国の戦術はずる賢い」…バイデンの「中国製EVへの関税引き上げ」が「日本の自動車業界再編」を迫る「納得の理由」
オバマ時代にも…
米中間の貿易摩擦を激化させかねない制裁関税の引き上げは、実は、2代前の大統領で、バイデン氏と同じ民主党出身のオバマ大統領の時代にも存在した。ただ、この時、課されたのは、中国が不当廉売をすることに歯止めをかけることが狙いの反ダンピング関税だった。 これに対し、トランプ前政権が2018年から開始したのは、中国の貿易慣行を問題にした通商法301条に基づく措置である。同政権は4回にわたって関税に引き上げ策を繰り返した。対象になった中国製品は合計で3700億ドル相当で、最高税率は25%に達していた。 さらに、トランプ氏は今回の大統領選でも、対中関税の強化を訴えていた。 一方のバイデン氏は自身の政権発足後、自由貿易派の期待を裏切って、トランプ氏の保護主義路線を一定程度継承し、高率の対中関税を維持してきた。 今回は、大統領選を待たずに、トランプ氏の主張を先取りする形で、さらに踏み込んで対中関税政策をエスカレートさせることにしたのである。 4年前と違い、中国経済への影響は今回の方が深刻かもしれない。中国経済が、不動産バブルの崩壊や、若年層の失業増加、成長率の鈍化などに喘いでいるからだ。そうした中で、中国製の工業製品の輸出は、中国経済の回復の数少ない推進力になるとみられていた。視点を少し変えれば、政治的、象徴的な側面も含めて、国内の不満をそらすため、中国の習近平政権が外交・安全保障政策をより強硬な方向にシフトさせるリスクも付き纏うことになる。 特に、事態を拡散して深刻化させかねない要因として、今回、対中強硬姿勢を見せているのが、米国にとどまらない問題がある。 カナダのエング国際貿易相は5月17日、外国通信社の電話インタビューに応じ、米国の中国製EVへの関税引き上げ措置を受けて「米国とオープンな対話をしている」としたうえで、カナダも、現行はわずか6%に過ぎない中国製の自動車全般に対する関税の引き上げの必要性を「もちろん、検討している」と明かしたという。 また、前述のように、EUはカナダと比較にならないほど尖鋭的だ。フォンデアライエン欧州委員長は今月6日のマクロン・仏大統領と習近平・中国国家主席との3者会談で、EV、太陽光発電モジュール、鉄鋼などの中国製品のEUへの輸出削減を迫った。 同氏は昨年来、「中国がEUに輸出するEVの価格が、中国政府の補助金によって不当に安く抑えられている疑いがある」との疑問を投げかけてきており、今回の3者会談でも「我々は、中国の自由競争を阻害する輸出政策を見過ごすことはできない。集中豪雨的な輸出は、欧州の製造業界を荒廃させる。世界は、中国の生産過剰によって作られた大量の製品を吸収することはできない」と、厳しい口調で、習主席に現状の是正を迫ったと報じられている。 しかし、習主席はフォンデアライエン氏の言い分に真摯に応じようとしなかった。中国国営の新華社通信によると、習主席は、「中国の生産過剰問題は存在しない」と突っぱねたばかりか、「割安な中国製品は、EU(経済)の(問題になっている)インフレ圧力を和らげる効果があり、中国とEUの貿易は相互にメリットがある」などと居直ってみせたというのだ。習主席の言動を見る限り、当面、中国による自主的な輸出の抑制は、期待できない。 こうなると、EUが制裁に乗り出すのは確実だ。欧州からの報道は、EUが早ければ来月上旬までに、中国製EVに対する追加関税の賦課を発表するのではないかと取り沙汰するものが目立っている。 対する中国は、早くも、欧米だけでなく、日本や台湾も報復関税の対象地域とし、大型乗用車や、自動車、電機、精密機器などの部品に使われる化学製品などに報復関税を課す案が検討されているとの報道がある。 双方がこのまま踏みとどまらずに突き進めば、世界的に報復関税の嵐が吹き荒れる事態を避けられない。 そうなった場合、難しい立場に立つのは日本だろう。 というのは、欧米に追従して対中関税の引き上げに踏み切れば、予想される中国の報復措置で行き場を失う日本製品の販路が、日本の国内市場にも海外市場にも存在しないとみられるからだ。