映画『悪は存在しない』インタビュー【後編】石橋英子が明かす、濱口竜介監督の音楽センス。
『ドライブ・マイ・カー』の監督・濱口竜介×音楽・石橋英子が再び組んだ最新作『悪は存在しない』(4月26日より全国順次公開)。企画の始まりは、石橋さんが濱口監督にライブ用映像の制作を依頼したこと。そこから本作が完成するまでに、お二人が口を揃えて「綱渡りのようだった」と言うほど、偶然的でユニークなプロセスを辿ったとか。後編では、石橋さんにお話を伺います。
──今日ぜひお聞きしたかったことがあって。『悪は存在しない』のメインテーマはストリングス曲ですが、映画の冒頭とラストでかかる時だけ、ギターとドラムによる短い前奏のような部分がついていますよね。曲の新鮮な入りにびっくりしたんですが、その部分は濱口監督のアイデアだとか? そうなんですよ。事前にそうすると伺ってはいたんですが、実際に映画を鑑賞したら本当にかっこいいし、最高な入り方だなと思いました。あれは曲を作った本人にはできないというか、まず思いつかないですよね。すごくこだわった使い方をしてくださった。この映画って、音楽の使い方だけじゃなくて全体に、濱口さんの感覚的なものや生理的に感じるものを大事にして作られたような印象を受けます。 ──あのギターとドラムの部分は、もともとどう作られたものなんですか? メインテーマをお渡しした後で、濱口さんが「何かギターの曲も欲しい」とおっしゃったんです。それで私からジム・オルークさんに、「ストリングスと同じキーで、ジムさんがあのテーマソングを解釈したものをギターで弾いてほしい」とお願いしました。最初はギターのソロだけでしたが、そこに山本達久さんのドラムを重ねたという感じです。 ──監督はいつからメインテーマに組み合わせようと思われていたんでしょうね。ギターとドラムの曲が届いてからなのか。 おそらくそうです。メインテーマと同じキーの曲が来るとは思っていなかったはずなので。 ──すごくスリリングなやりとりに思えます。 まるで綱渡りのような。濱口さんのほかに誰もそんなことできないです。