「顔ダニ」は誰の顔にもいる、いったい何をしているのか? 肌への影響はあるのか
「2匹、3匹......あ、コニキビダニもいる!」
何時間かけてもダニが1匹も見つからず、毛穴の汚ればかりを彼女に見せることになるのではないかという不安で、私は緊張していた。ヒルは前傾姿勢になって、力強く一定のペースで私の顔にヘラをこすりつけた。1分後、彼女は健康的な半透明の顔の脂がべったりと付いたヘラを見せてくれた。さらに彼女は、取れた脂をスライドガラスになすりつけ、カバーガラスをかぶせて、スライドガラスを顕微鏡に載せた。 この作業を何千回となくこなしてきたヒルは、慣れた手つきで顕微鏡を調整していた。私はおとなしく結果を待った。それほど長くはかからなかった。数秒後にヒルはつぶやいた──「いた」。彼女はもう1回顕微鏡をのぞき込んだ。「間違いない」。私たちはうれしくてキャーっと声を上げた。おまけに、私の顔にいたダニは生きていた。私は、ダニが小さな脚をもぞもぞ動かして明るい光から逃げようとしている瞬間を目にした。 私の顔の元住人の貴重な姿を写真やビデオに収めたあとで、ヒルはスライド全体をさらにしっかりチェックした。ゆっくりと彼女は数え始めた。「2匹、3匹......あ、コニキビダニもいる!」 それから彼女はしばらく黙ったあと、最終結果を告げる。「8匹」。ニキビダニが6匹、コニキビダニが2匹。これは多い数字だと説明してくれた。顔からこすり取る方法で見つかるのは普通なら1匹か2匹くらいで、まったく見つからないこともあるという。平均以上という結果を、私は前向きにとらえることにした。
人間と非常に近い距離を保ちながら進化
やがて、ヒルは顔ダニを探すいい方法を見つけた。DNAを利用するやり方だ。2014年、学術誌「PLOS ONE」に掲載された論文で、ダンのグループは顔ダニが誰にでもいることを示す初めての確かな証拠を発表した。採取した皮脂のDNAを分析した結果、18歳以上の被験者全員から顔ダニのDNAが検出されたのだ(ちなみに、顔をヘラでこするやり方でダニが見つかったのはたったの14パーセントだった)。 さらにDNAの研究を進めると、顔ダニは人間と非常に近い距離を保ちながら進化してきたために、人種を反映した系統が少なくとも4種類──ヨーロッパ系、アジア系、南米系、アフリカ系──存在することが明らかになった。 ダンのチームの一員で、現在はカリフォルニア科学アカデミーに所属するミシェル・トラウトベインは、顔ダニの世界的な多様性の研究を続けている。彼女は顔ダニの全ゲノム解析をしたいと考え、90カ国以上の人々の顔からダニを集め、ダニの進化の研究に新たな道を開こうとしている。 また、ダニが人間と一緒にどのように進化してきたかの研究も進められているという。研究所でダニを育てることは難しいが、ダニの遺伝子を調べることでダニの体の仕組みを理解できるかもしれないそうだ。