「顔ダニ」は誰の顔にもいる、いったい何をしているのか? 肌への影響はあるのか
書籍『禁断の世界 科学で解き明かす、見たくないけど見たいもの』から抜粋して紹介
今この瞬間にも、何百匹、あるいは何千匹ものごく小さな8本脚の動物が、私たちの顔の毛穴の奥深くにこっそりすみついている。私の顔にも、あなたの顔にも、あなたの親友の顔にも、知り合いや恋人の顔にも、ほとんど誰の顔にでもこの生きものはいる。彼らはある意味、私たちに最も近いパートナーだ。 ギャラリー:驚き!電子顕微鏡で見た昆虫、寄生虫 写真18点 その生きものとはダニだ。体は小さいが、クモガタ類に属し、クモの仲間とされる。あまりにも小さいので肉眼では見えず、動き回っていてもその動きを感じることはない。そもそも、このダニはあまり動き回ることがない。顔ダニと呼ばれるこのダニは究極の隠遁(いんとん)者で、1つの毛穴の中に潜り込んだまま、一生のほとんどを過ごす。生息場所にすっかり適応した彼らの体は、毛穴と同じような形をしている。 さらに驚くべきことに、私たちの毛穴には2種類の異なるダニがすみついている。1つはコニキビダニ(Demodex brevis)で、体が短く、ずんぐりしている。漫画に登場する石器時代の原人がかついでいるこん棒のような形だ。このダニは皮脂腺の奥深くを好む。もう1つはニキビダニ(Demodex folliculorum)と呼ばれ、体がもう少し細長い。学名が示すように、ニキビダニは皮膚の表面に近い毛包(follicle)にすみつく。
一生を顔で過ごす
どちらのダニも毛穴の中のそれぞれの居場所からあまり動かないため、穴に閉じこもっているときも、顔の荒野を旅するときも、科学者たちは観察に苦労する。だから、ダニの生態についてはあまり知られていない。 しかし、ひとつ確かなこともある。彼らは生まれてから死ぬまでずっと、私たちの皮膚で生涯を過ごす。 だから、私たちの顔で当然繁殖もしている。光が苦手なため、どうやら行為は夜に行っているようだ。顔ダニは毛穴にあるものをなんでも、おそらく、死んだ皮膚の細胞や皮脂を食べると考えられている。 ということは、私たちの顔で排泄もしている。しかし、おそらく期待も込めて、科学者は顔ダニには肛門がなく、排泄物を死ぬまでため込んで排泄はしないと考えてきた。 ところが、2022年に、顔ダニの小さな小さな肛門の写真が学術誌「Molecular Biology and Evolution」に発表された。文字面のおかしさは別として、おかげで顔ダニが死んだときに大量に放出される老廃物が皮膚の炎症を引き起こしているという説は否定された。