菓子業界、「喫食音」を商品価値に “音を食べる”需要を創造
菓子市場で、菓子を食べる時に発生する「喫食音」に着目した動きが活発化している。菓子は食品の中で嗜好(しこう)性が高く、情緒的な価値が求められる傾向がある。さらに、グミやスナック菓子などは食感を重要視し、オノマトペとして商品名やパッケージに活用するケースも多い。菓子メーカーは、情緒的な価値としての「喫食音」の訴求に加え、科学的根拠に基づき「喫食音」を機能的な価値として提案する取り組みを進め、「音を食べる」という新たな需要創造に挑戦する。
パリパリ、ポッキンは幸せ感アップ
喫食音を価値としてとらえる動きは、08年にイグノーベル賞を受賞したオックスフォード大学のチャールズ・スペンス教授の「パリパリというポテトチップスの咀嚼(そしゃく)音を聞きながら、しけったポテトチップスを食べると、実際よりも15%新鮮に感じる」という研究に始まる。日本の菓子業界では、2016年に江崎グリコが「ポッキー」の「ポッキン」という喫食音に着目し「冷やして鳴らそうお菓子のいい音(ね)」キャンペーンを展開。 24年に入り、「喫食音」の訴求は活発化。4月に森永製菓は、スナック菓子「おっとっと」の喫食音が幸福感に寄与する可能性を検証するために、快音研究が専門である中央大学理工学部精密機械工学科の戸井武司教授との共同研究結果を公表。研究は「おっとっと」など空洞がある構造のスナック菓子(中空)と「ポテトチップス」など、空洞が無い構造のスナック菓子(中実)で、構造の違いがもたらす音の特徴や感情に与える影響を調べた。実験参加者に中空・中実スナックの喫食音を聞いてもらい、喫食音によって想起される感情の違いを検討した結果、中空スナックは「幸福」や「喜び」を、中実スナックは「驚き」や「ワクワクする気持ち」を創出させる傾向があることを解明した。 同じく24年にカンロは素材菓子「オトタベ」を発売。1月にセブンイレブン限定でテスト販売を実施し、6月に全国拡大した。「プチポリ納豆スナック」などを担当するマーケティング本部ブランド開発部主任の大橋未央氏は、同品開発の背景にSNSにおける「ASMR」ブームがあると説明。同社の「グミッツェル」は、ASMR動画で人気に火が付き、現在も入手困難な状況が続く。「グミッツェルのASMR動画がSNSでバズったことは、社内で共有されており、喫食音が価値となることは理解していた」(大橋氏)という。 一方、素材そのものの味を訴求する素材菓子は加工度が低く、差別化が難しいことから、同社の強みである情緒的な価値を訴求し、楽しさを付加する狙いから、素材自体の味わいと組み合わせに加え「音を食べる」というコンセプトにした。食べた時の音と納豆との相性を考え、複数の素材との組み合わせを検討し、昆布を選んだ。SNSでは「食感で食べ物を選んでいるので、好み」「買い占めた」などの声が寄せられたという。
日本食糧新聞社