人・食・地域を結び、小学生が考案した駅弁の思いを形にするフードコーディネーターに迫る
栄養教諭としての知識と経験を活かす給食カフェの開業
「お店を開こうと思ったときに、『私にできることって何かな?』と考えました。私の強みは、学校給食の関係でできた人とのつながりです。そんなとき、長野県の給食カフェを訪れ、オーナーが元給食調理員さんだったことを知りました」 石倉さんは「これしかない」と感じ、給食カフェを開業します。 「学校給食って、ネガティブなイメージが強いと思っていたのですが、大人の方は懐かしいと言ってくださって、想像以上に大きな反響があり賑わいました」 しかし、2年を過ぎた頃から、徐々にお客さんの求めるものと自分のやりたいことにギャップを感じるようになってきたといいます。 お客さんから求められる商品は、昔懐かしの揚げパンや給食で人気のカレーライスです。一方、石倉さんが提供したい料理は、地元の食材を活かしたメニューでした。自分の思い描く店舗イメージと、ユーザーニーズとのギャップは日に日に大きくなるばかりだったと語ります。 石倉さんの心の中には、今にも集中豪雨が降りそうな分厚く黒い雲が張りつめていたのでしょう。人・食・地域を結ぶ場所を作りたいと、一念発起して始めた給食カフェでしたが、オープンから約3年後の2023年初頭、長期の休業期間に入りました。
関係人口コーディネーターへの歩み
給食カフェの店舗営業を休業し、次に取り組んだのは人・食・地域を結ぶコーディネーターへの道。そのうちの一つは、人と人をつなぐ仕事「関係人口コーディネーター」でした。 関係人口とは、観光でも移住でもない、その地域に愛着を持って関わりをもつ人を指します。国が行う地方創生の政策の一つで、滋賀県高島市では、そんなつながりのある人を「高島縁人」と呼び、ご縁をつなぐ取り組みを行っていたそうです。 石倉さんは熊川宿で給食カフェを開いて、福井県内だけでなく関西圏からのお客さんも多いことに気がついたとのこと。人との縁で声がかかり、この仕事を通じて熊川宿という県境の場所にいるからこそ、さらに人や地域との直接な横のつながりを広げられるのではないかと期待しました。 しかし実際には、地域の壁を感じることが多かったと語ってくれました。 「若狭町と高島市はすぐ隣なのに、福井県と滋賀県には情報の交流がほとんどありません。地域の壁は、私が考えていたよりもはるかに高かったようです」 高島市は若狭町から車で約20分程度の距離ですが、入ってくる情報量の少なさに驚いたといいます。石倉さんは関係人口コーディネーターとして働き始めてから、地域の垣根を取り払って人と人を結びたいと考えることが多くなったとのこと。