【SHO-BLUE】大谷翔平グラブは今 能登半島地震から半年 被災3校を回る
<SHO-BLUE> 元日に最大震度7を記録した能登半島地震から、1日で半年を迎えた。今回の「SHO-BLUE」では震災被害が大きかった能登地域の小学校3校を記者が訪れ、ドジャース大谷翔平投手(29)が寄贈したグラブがどう活用されているのかを見て回った。使い方も、遊び方も、人気ぶりも各学校でさまざま。大谷グラブが被災地の子どもたちに与えたものとは-。【平山連】 ■一目散にグラウンド 能登町 松波小 はやる気持ちが抑えられない。給食を食べ終わって職員室へ向かうと、お目当ての用具を見つけて心が躍った。能登町の松波小学校3年生の新谷譲児(じょうじ)さんと中野圭人さん(ともに8)は、昼休みを使ってキャッチボールをしようと一目散にグラウンドへ駆け出した。 照りつける日差しが心地よい。山なりのボールが青空に吸い込まれていくようだ。5メートル、10メートル、15メートル…。だんだんと間隔を空けて投げる様子に、周囲から「ナイスボール」「ストライク」と歓声が上がる。左利きの新谷さんは「右でも投げられるけど、左のグラブの方がやっぱり投げやすいね」と得意げ。一方の中野さんは「キャッチする時の感触がすごく良い」とうなずいた。そばで見守った宮本秀人校長は「大谷選手のグラブが松波小に与えた恩恵は計り知れません」と感謝しながら震災直後のことを話し始めた。 被災した校舎は亀裂や陥没など損壊が著しく、隣接する松波中へと移転を余儀なくされた。「とにかく学びを止めてはいけない」との一心で1月下旬に学校を再開したが、連日報じられる震災関連のニュースが学校全体に暗い影を落とした。児童は全員無事だったものの、家族の中には犠牲に見舞われた人もいた。カウンセラーが入って対応に当たるなど教育現場に与えた震災の影響は甚大だった。 そんな重苦しい閉塞(へいそく)感を打破したのが、大谷グラブだった。 学校再開に合わせてグラブが届いたことを報告すると、「おぉ! ついに松波小にも届いたぁ~」と児童たちが歓喜した。宮本校長は「震災直後の松波小学校にとっては、大谷グラブが唯一の明るい話題でした」と振り返る。同封された手紙にもグッときた。「(グラブが)勇気づけるためのシンボルとなることを望んでいます」。スーパースターの粋な計らいに、どれほど励まされたことか。感謝が尽きない。 昼休み終わり。目いっぱいキャッチボールを楽しんだ新谷さんと中野さんは額の汗をぬぐいながら「今度は大谷選手と一緒にキャッチボールをしたいね」「僕は打席に立ってもらって勝負したいね」と妄想を膨らませた。陽気に語り合う2人の顔からは、満面の笑みがこぼれた。 ■友達と仲直り 七尾市 中島小 七尾市の中島小学校6年の田内祐(ひろむ)さん(11)は、友達とすぐに仲直りができたのも大谷グラブのおかげだったと感謝する。口げんかに発展した翌日、キャッチボール仲間の輪にその友達も加わった。最初は気まずい雰囲気だったが、ボールを投げ合ううちに変化が起きた。「怒ってた気持ちがなくなって、謝りたくなった」。お互いに謝罪後は仲が深まった。「キャッチボールってすごいな」とうなった。 兄の影響で市内の野球クラブに通う4年の島田彩生(あやせ)さん(9)の悩みは、活動するクラブに女子メンバーが他にいないことだった。「今まではお父さんとキャッチボールをする」のが通常で、ちょっぴり寂しさもあった。そんな流れを大谷グラブが変えた。グラウンドに女友達を集め、投げ方や捕球の仕方をうれしそうに教える光景は誇らしそうだ。野球の楽しみ方が広がった。 今回の寄贈をきっかけに、同校では市販のグラブ2個を新たに買いそろえた。全校児童150人を要する学校内のニーズに応えた形だ。昼休みには野球好きな若手教員も交じって、キャッチボールに戯れる。教育現場にもたらす大谷グラブの効果は計り知れないと実感させられる。 ■バドミントン!? 穴水町 向洋小 「取材してもあんまり話題がないかもしれません。実は…」と担当教員に打ち明けられたのは、大相撲元小結の遠藤の母校でもある穴水町の向洋小学校に訪れた時だ。現在バドミントンブームの真っただ中で、大谷グラブの人気は下火傾向だという。グラブを借りてキャッチボールをする子もいるが、たしかにバドミントンを楽しむ児童が圧倒的に多い。そんな光景を見れば、大谷自身も少し驚くだろう。 3月末までは逆だった。「お披露目式もやって、みんなで実際にグラブを触ってみて」と盛り上がったが、新年度を迎えると状況は一変した。テニスクラブに所属する児童が多くなった絡みで、バドミントンのラケットに持ち替えて昼休みも練習に明け暮れる児童が続出。4年生の原田結伍さん(9)はそんな1人で「打ったときの爽快感が大好き」と元気いっぱいに魅力を紹介した。流行は移ろいやすい。同校ならではの特徴に興味が湧いた。 ◆大谷グラブ 昨オフに日本全国の小学校約2万校に対し、3個ずつ合計6万個のニューバランスのジュニア用グラブが寄贈された。大谷のサインがプリントされた右利き用2つと左利き用1つの計3つが贈られ、「野球しようぜ!」との写真入りメッセージカードも添えられた。製造費用などは非公表。ジュニアサイズの軟式用グラブは通常1万円前後で売られていることから、単純計算でも約6億円はかかるとみられる。 ◆大谷と能登半島 能登半島地震発生直後の1月5日には、被災地支援のために寄付を行うと自身のSNSで発表した。所属するドジャースと球団を経営するグッゲンハイム・ベースボールは100万ドル(約1億5500万円)を送り、大谷は個人で寄付した。声明では「復興活動に参加してくださった方々に感謝するとともに、今後も私たちが団結していき被災された方々を支援していきたいと願っています。行方不明者の早期発見と被災地域の復興を心より願っています 大谷翔平」などと寄せた。