プロだけが気づいていたこと…週刊文春トヨタ記事の「社外取締役」告白は、歴史を画する記事だった
社外役員の本当の役割
問題の週刊文春の発売後、有力官庁の事務方トップだった方にお会いした。すでに週刊文春の記事を読んでいらっしゃり、その場で私にこう言われた。 「役人は風を読むからね」 役人出身である菅原氏は「風」が変わったと思っているという趣旨になろう。それは、なんという強い励ましの言葉であることかと私は感じた。 いや、そうした言い方は菅原氏に失礼だろう。同じ役人トップのOBとしての感想を頂戴した方の感想は当たっているかもしれないし、外れているかもしれない。役人のトップレベルの方といってもそれぞれの方の個性はあるに決まっている。十人十色は申すまでもない。 菅原氏は《役所出身の僕は媚びる必要がないから。取締役会で異論を言うのは僕くらい。だから、場が凍ります。》と言われたと報道されているのだ。経産省はコーポレートガバナンスを主導してきた官庁である。独立した社外取締役としての信念と矜持を一貫してお持ちであったとしても少しも不思議ではない。ことに菅原氏はコーポレートガバナンス推進を熱心に推進してきた経産省の事務次官だった方である。 それにしても、菅原氏以外の独立社外取締役の方はどうお考えなのだろう。 議決権行使助言会社であるグラスルイスから独立性について異論のでた大島眞彦社外取締役は、豊田章男氏の子息の関係した会社であって豊田章男氏が五十億円の出資をした会社の株式をトヨタが五十一億円で買い取った取引について、 「一億円を上乗せした形で透明性が疑われるし、背任にも見えかねない」と問われて、 「私も金融が専門ですから、そういうことを取締役会の中で言いました。疑問を持つ人がいることも理解できます。」と答えたと報じられ、さらに、 「仮に当局に持ちこまれても、大丈夫な取引だという自信が今はあります」と結んでいる。 当然ながら、トヨタも「『第三者機関で株式価値を評価し、歳出して額を決めた』などとしている」とも報じられている。 私は大島氏の独立性についても、この株式の評価についても、詳細に議論できるほどの具体的事実についての知識はない。ただ、私には大島氏が「そういうことを取締役会の中で言いました」という部分が気になった。菅原氏は「取締役会で異論を言うのは僕くらい」と述べたと報道されていることは上記のとおりだからである。 この二つには矛盾があるように、一見思える。 そうではないとすると、大島氏が取締役会で述べたと報じられている程度のことは「異論」ではないというのが菅原氏の考えなのかもしれない。憶測にすぎない。 私は、常に、会社は経営者次第、そのために優れた経営者を選ぶ手段がコーポレートガバナンスであると言い続けてきた。会社において重要なのは経営者、トップなのである。 さらに私は独立社外役員について、日経の西條都夫氏のインタビューを受けた際、自らが社外役員である事実を踏まえて、「辞職の覚悟なくして社外取締役を引き受けるべきではない」と申し上げ、記事(2018年4月10日 日経新聞朝刊)の一部にしていただいたことがある。 私には、今回のトヨタの支配下にある3社での不祥事は独立した社外取締役を中心とした調査が徹底して行われ、その実行を独立した独立社外取締役が数年をかけて監督すべき事態のように見える。独立した十分な調査が行われたのだろうか。 私には、トヨタのリーダーを替えなければならない事態とは見えない。しかし、豊田章男氏の経営トップとしての自覚と使命感とは別に、独立した社外取締役の視点からの調査のみならず継続した監督が経営トップに連携されるべき事態だと思われる。株式会社におけるコーポレートガバナンス、なかでも取締役会の問題である。 ぜひトヨタの独立社外取締役には、独立した調査のみならず、年をもって数える監督体制を取締役会で提案していただきたい。 豊田章男さんがトップであっても、トヨタに独立社外取締役の存在は重要である。独立した社外取締役は、どんなに優れた経営者がいたとしても、その果たすべき役割がある。それがコーポレートガバナンスというものである。
牛島 信(作家・弁護士)