プロだけが気づいていたこと…週刊文春トヨタ記事の「社外取締役」告白は、歴史を画する記事だった
元経産次官の社外取締役の発言
私は豊田章男氏と直接お話したことがある。小さな集まりでコーポレートガバナンスについて2017年12月に講演をした際、簡単なやり取りをさせていただいたことがあるのだ。豊田氏とのやりとりは私の記憶にはっきりと残っている。 講演が終わったとたん、まだ講演者の席にいた私のところへ急いで歩み寄ってこられ、ある質問をされた。具体的な中身はここに記すことはしない。もちろん、豊田さんのご質問に私は私なりのお答えを申し上げたのだが、トヨタにかかわる部分について、一種打ち明けるような、説明するような調子でお話しくださった。 短いやり取りだったが、私はそのおりに豊田章男さんという方の誠実な人柄と強い使命感を感じないではいられなかった。 そのときの記憶は、上記日経の「私はトヨタで主権を現場に戻し、どんな立場・出身であっても、経営に参加できるようにした。これが私流のガバナンスだった。トップの方々には、現場が自ら考え、動くことができる企業風土の構築を目指したいということを話した」という部分と重なる。そうなのだろうなあ、と改めて感じるのである。 そのトヨタについて週刊文春が伝えたのは、トヨタの独立社外取締役である菅原郁郎元経産省事務次官の言である。なんと豊田章男氏について、「昔は一家言持っている人たちが周りにいた。でも二〇年頃からかな、副社長を次々放逐したり、三人置くと言ったり。それで置いた人もまたいなくなって。章男さんに引き上げられた人ばかりで、率直に物を言う人がいなくなりました」と述べたというのだ。 記事は菅原氏に「さらに聞くと『章男さんは変わってしまった』と言って、こう言葉を継いだ」と続く。そうした菅原氏の発言が決定的に重要であると私は思っている。 菅原氏の発言についての記事はさらに以下のとおり続く。 《──イエスマンで固めたい? 「結果としてね。でも、役所出身の僕は媚びる必要がないから。取締役会で異論を言うのは僕くらい。だから、場が凍ります。執行役員が『会長の了解済み』という案件でも、僕は『おかしい』と言う。章男さんは『その通りだね』と受け止めることもあれば、意に沿わない時は『あなた、クルマ屋じゃないから本当にわかってない』と言われることも。是々非々です」 ──B子さんらの登用は? 「周りの連中がブツブツ言っているのは、耳に入っていました。役所とか普通の組織だったら、何らかの形で整理します。リスクを取り除くという意味でも」 ──日経新聞が嫌いだと。 「揉めたらしいけどね。メディアもだらしない。物事を正しく伝えるのが仕事なのに、テレビも新聞も提灯記事しかやらないから」 ──グループ三社で不正が。 「心配なのはむしろ下請けの人たち。四・九兆円の利益(今年三月期の連結営業利益見通し)を出していたけど、何一人で儲かっているのか、と。下請けも含め、歴史的な増収増益なら立派だけど、そうじゃない。これをどう還元していくのか」 ──では、トヨタ本体の不正は大丈夫なのか。 「社外取締役として何度も確認しているけど、みんな『大丈夫、大丈夫』と。ただ、生産台数は凄いし、次々新しい車種が出ます。どこかで変えないと。でも、章男さんにはそういうの、届かないんだよな……」 そう語るのだった。》 こうしたやり取りで終わっている。