<ラグビー>古豪・神鋼の復活はなるか?
かつて社会人V7を成し遂げた古豪・神戸製鋼ラグビー部が、2003年度以来となる王座奪還に近づいている。上位4強によるトップリーグのプレーオフにリーグ戦首位で進出。現体制下では、初の出来事である。優勝まであと2試合。明日24日に大阪の近鉄花園ラグビー場で行われる準決勝でヤマハとぶつかる。 低迷していたクラブに渇を入れたのは、ギャリー・ゴールドヘッドコーチ(HC)。白金のオールバックヘアを光らせる、恰幅の良い47歳である。 過去には、プレミアシップ(イングランド最高峰リーグ)に属するロンドン・アイリッシュ、スーパーラグビー(南半球最高級リーグ)のストーマーズなどでHCを歴任。2011年ラグビーワールドカップニュージーランド大会では、南アフリカ代表のアシスタントコーチを担った。クラブ史上初の外国人指揮官として来日前から期待されたゴールドHCは、ごく、簡潔な戦法を打ち出した。 堅い守りで耐え、敵陣の深い位置でモールを組む。そのためにボールをどんどん敵陣へ運ぶ。接点と十分な間合いを取って陣形を作り、個々の判断を利してキック、ラン、パスを選択する…。実力者の揃う集団にオーソドックスなロードマップを示した。 もっともこの人の真骨頂は、すべきことの決定ではない。すべきと決定したことを、徹底的にやり抜くことである。合言葉は「attitide」。姿勢、態度のことだ。 ゴールドHC、かく語る。 「ほとんどのチームにいい選手がいて、やるラグビーも大きくは変わらない。何が差となるか。選手がそのラグビーをどれだけハードにやりきるか、という部分になります」 接点の周りに人を揃え、球の出先へ一気に圧力をかける組織守備。球の周りの支柱を中心に固まり、横槍を入れられても崩れずに進むモール。重量級の日本代表勢を軸に圧力をかけるスクラム。この3つの強みを、強度の高い反復練習で作り上げた。
グラウンド外では、チームリーダーとの対話を重視した。先導役にはまずチームがすべきことを徹底させる。何が何でも示しをつけさせる。結果、周りの選手の気を引き締める…。その循環を作りたかったのである。 「ゲームが始まればコーチの影響力は薄くなる。だからこそ、その前にリーダーたちと多くの責任を共有したいのです」 こんな指揮官の態度を、フランカーの橋本大輝主将はこう受け止めている。 「先頭に立って、彼の言うラグビーを体現しろと言われるだけ。タフなチョイスをしろと」 入部6年目で34歳の伊藤鐘史副将は、その「チームプレー」を支える指揮官を「チームとギャリーの性格が、マッチしている」と観る。 「個性的なキャラクターを、彼の情熱がリードしている」 駆け引きに長けたロックとして日本代表でも活躍する伊藤は、03年度から5季在籍のリコーでは主将を経験。下部リーグへの降格とトップリーへの再昇格を味わってきた。その時々の組織と指導者の相性を見つめたうえで、いまのマッチングを指摘したのだ。 新指揮官の「情熱」といえば、こんな逸話がある。 2014年12月13日、東京は秩父宮ラグビー場。セカンドステージの第3節で、前年度王者のパナソニックに逆転負けした際である。試合を終えたばかりのゴールドHCは何と、レフェリーの控え室に乗り込んだのである。観察力に定評のある平林泰三レフリーを尊重しつつも、怒りは収まらない。記者会見でもこの調子だった。 「もちろん、誰でもミスはあります。私もミスを犯します。しかし後半、向こうのペナルティーを取ってもらうことなく、その後のこちらのペナルティーが取られたことが、少なくとも2つはありました」 前半を「27-3」でリードしていたが、後半は「0-26」と逆転された。両チームが取られた反則数では、前半が神戸製鋼の「4」にパナソニックの「6」、後半は神戸製鋼が「7」でパナソニックが「0」。確かに、いびつな数列が並んでいた。レフェリー批判は、この競技にあってはタブーとされがちだ。笛を吹くものが、厳正中立な立場を遵守する代わりに、1つひとつの判定は尊重されるべき…。その雰囲気が根付くなか、ゴールドHCが、試合直後のレフェリー控え室へ入った。衝撃が走った所以である。 ――パナソニック戦後、レフェリーの控え室へ行ったのは本当ですか。 「はい。そうですが?」 指揮官は毅然と振舞うのみだ。チームはその後、4連勝を果たしている。例の行動との相関関係は薄かろう。ただ、かような行動を取るだけの感情の触れ幅が、才能集団を一枚岩としてきたのは間違いあるまい。橋本主将はつぶやくのだった。 「本当に情熱あふれる人で…。僕らのために動いてくれたのは嬉しかったです」