<ラグビー>古豪・神鋼の復活はなるか?
神戸製鋼は、日本楕円球界の老舗ブランドである。1987年からは、当時の全国社会人大会と日本選手権を7連覇。当時は「ミスターラグビー」と崇められた平尾誠二、大八木淳史、林敏之、大西一平、イアン・ウィリアムズらが顔を揃えていた。強くて人気があった。以後、元木由記雄、堀越正巳、大畑大介と、各年代の日本代表クラスの選手が相次ぎ活躍。いまも大学ラグビー界の実力者を採用し、アンドリース・ベッカーやジャック・フーリーといった南アフリカ代表経験者も並べる。 それでも、トップリーグがスタートした2003年度の優勝を最後に優勝から遠ざかった。チームは秩序と無秩序のバランスの取り方に難儀していたようで、大一番での敗戦後は「最後にチームのストラクチャー(秩序、構造)を守り切れなかった」との談話を重ねた。 復権を託されたゴールドHCが「attitude」を謳い、クラブの根本的な問題を無意識のうちに解決したのだ。ある選手はこう指摘する。 「神戸には、ある程度の遊びがないとダメ。ギャリーは、そのあたりの調整も上手くやっているように映る」 ゴールドHCは個別ミーティングでは、それぞれのプレーの判断を尊重したうえで指揮官なりの明確な良し悪しを示す。結果、多くの選手が進化を遂げた。なかでも新人ウイングの山下楽平は、ボールを持たぬ時の動きの高質化でトライ王となった。この人の談話は、1人の目利きの存在が組織の意識をも変えうることを明らかにしていた。加えて、ゴールドHCが「情熱家」の域を超えた指導者であることも。 「ギャリーは細かいプレーも評価してくれる。いままではチェイス(味方が蹴った球を追うプレー)をあそこまで評価してくれる人もいなくて。それで、調子が悪い試合があったとしたら、そこはいい意味で、悪い評価を下してくれる。1人ひとりを見てくれているんだな、と感じます」 チームはトップリーグ後半節のセカンドステージで全チーム中最多の242得点、上位8強中最小の113失点で首位となった。特に終盤戦では、助け合いの動きを際立たせた。突破された仲間をカバーする。ミスで後逸したボールを全力で追いかける…。秩序のなかで育った個性が、その秩序を守ろうとやっきになっていた。相手のコーチから「大砲だらけ」と揶揄された前年度までとは、違った光景かもしれなかった。 「チームに漂う気が、いいんでしょう。いま、一番チーム状態がいいのは神戸製鋼ですよ」 セカンドステージ終盤にこう語ったのは、こちらも4強入りした東芝の冨岡鉄平HCだ。今度の準決勝で神戸製鋼とぶつかるヤマハの清宮克幸監督は、より具体的に相手の特徴を分析した。 「キープレーヤーが、チームプレーのなかで機能している。そこが厄介」 さて準決勝の神戸製鋼対ヤマハは、似た特徴を持ったチームの対決だ。いずれもスクラムやモールが得意で、それを敵陣で繰り出す回数を増やしたいと願っている。 14年12月21日、ノエビアスタジアム神戸で行われた直接対決では、神戸製鋼側がプラン通りに戦って40-10で快勝した。ノックアウトステージでの再戦を前に指揮官は「プレーの精度」を問う。 「1点差でも勝てばいいが、できるだけミスを少なくして戦う。プレッシャーがかかる中で我々のやることをいかに遂行していくか」 変革をもたらしたゴールドHCは、今季限りでチームを去る。2年契約を結んできたが、「家族の事情」のため、来季からは、母国の南アフリカに帰ってシャークスの総監督を務めることになっている。 このニュースはシーズン途中で流れたが、チームは動じることなく、ボスと共に有終の美を飾ろうというモチベーションに変わっている。 伊藤副将が言う。 「ずっと一体感がありますね」 一丸となって大一番に挑む。 (文責・向風見也/ラグビーライター)