「私の東京のはじまりは和光」作家・青山美智子「人魚が逃げた」の舞台“銀座”の思い出を振り返る
TOKYO FMの音声配信プラットフォームAuDee(オーディー)の番組「元・本屋の新井、スナックのママになる。」。“日本で一番有名な書店員”の新井見枝香がAuDee内に「スナック新井」を開店。小説家、編集者、書店員に踊り子のお姉さんなど、さまざまなお客様をお招きし、出版事情の裏側、いま一番切なくなる漫画、書店とストリップ劇場の未来まで、“大人のここだけ事情”をトークしていきます。 11月25日(月)の配信では、作家の青山美智子さんがゲストに登場。11月14日発売の短編小説「人魚が逃げた」(PHP研究所)の話の舞台でもある「銀座」について語り合いました。
青山美智子さんは1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国し、上京。出版社で雑誌編集者を経て、執筆活動をスタートします。デビュー作「木曜日にはココアを」が第1回宮崎本大賞を受賞。「猫のお告げは樹の下で」で第13回天竜文学賞を受賞します。「お探し物は図書室まで」「赤と青とエスキース」「月の立つ林で」「リカバリー・カバヒコ」と、2021年から4年連続で本屋大賞にノミネートされています。
◆物語の舞台・銀座は書きやすかった
新井:青山さんの新刊「人魚が逃げた」が発売されました。おめでとうございます! 読んだ人もいると思うので、より話を深めていきたいと思います。思ったんだけど、(表紙にある)銀座の和光に行ったよね? 青山:ティーサロンでお茶しましたね。 新井:あのときって時計台は鳴ってた? 青山:鳴ったのを聞いてから店内に入っていきましたね。もう本は書きあげていて、今はこういう話を書いてるんだって話をしたのかな。 新井:「人魚が逃げた」の舞台は銀座だから、銀座にある建物やお店がいっぱい出てきます。だから和光もわかるし、歩行者天国になるのもわかる。 青山:実は、東京に出て来て最初に働いたのが銀座だったのね。ある出版社の雑誌編集部を紹介してもらったんだけど、紹介してくれた方が編集部との顔合わせに連れて行くからと、待ち合わせに指定された場所が和光だったんですよ。 新井:そうなんだ! 青山:私の東京のはじまりは和光なの。表紙のちょうど「王子」がいるところで待っていた(笑)。表紙案が出てきてからバーッと思い出したんだよね。そういう意味ではすごくしみじみとするというか、感慨深いですね。 東京をすべて網羅しているわけではないけど、銀座は地理がわかるっていう意味でも書きやすかった。あと、人魚との親和性がよかったというか。歩行者天国ってちょっと不思議な空間じゃない? 新井:わかる! 青山:人魚がいてもおかしくない雰囲気だったっていうのもあったね。 新井:物語のなかでも歩行者天国になっているし、せっかくなら車道を歩こうっていうタイプと、それでも歩道を歩いてしまうタイプがいるって書かれていて、「たしかになあ」って思った。不思議な感覚になるよね。 青山:そうなの。 新井:しかも時間で区切られて変わっていくんだけど、私って歩行者天国に切り替わる瞬間に立ち会ったことがないんだよね。 青山:私は編集さんと2年前ぐらいに、歩行者天国に1日中いようってことで、始まるところから終わるまで取材というか、体感をしたのね。その経験がすごく本には出ていますね。いい取材だったなあ。