《リポート2024》茨城大、JX金属連携1年 技術者輩出へ「種まき」 次世代育成や学術交流 茨城・日立
ともに茨城県日立市に拠点を置く茨城大工学部と、非鉄金属大手のJX金属(本社東京)が包括連携協定を締結してから1年が経過した。この間、中高生を対象にした次世代育成の活動や学術交流など20件近い産学連携事業を実施。地元で活躍するエンジニアの輩出や互いの技術力向上へ地道な「種まき」が進む。 両者は昨年7月、茨城県で「学び、働き、暮らす人材」をともに育てることを目的に協定を締結。①学生のキャリア形成支援②共同研究などの学術交流③地域に根差した次世代育成活動④広報活動などその他-の4項目を掲げる。 日立鉱山をルーツに持つ同社は半導体材料などで世界的シェアを誇る。同市や同県北茨城市に工場を構えるほか、同県ひたちなか市には約1500億円規模の投資で新工場の建設を進めており、従業員の約半数が勤務する茨城県を「重要拠点」(同社)と位置付ける。このため地元での人材育成を通して地域の活性化に貢献していくことで同大と考えが合致し、協定締結に至った。 ■後押し 柱の一つの次世代育成活動は、子どもたちの理系進路選択を後押しするのが狙いだ。 今月1日には協定に基づく初めての出前授業として、同大が県立日立一高付属中(日立市)でものづくり体験教室を主催。講師は同社日立事業所で研究開発を担う技術系社員が務め、1年生約80人が参加した。 授業では薬品を使って銅を分離させる溶媒抽出の実験を実施。同社が実際にリチウムイオン電池からレアメタルをリサイクルする際に用いる手法で、生徒らは「化学の実験はほぼ経験がなかったので面白かった」「実際に社会で役立つ方法と聞いて授業の大事さを改めて感じた」と、学校での学びと産業との結び付きを実感した。 ほかにも、昨夏と今夏には女子中高生向けの企業見学ツアーを開き、同社の女性技術者と交流する機会を提供。同大の田嶋美砂子准教授は「産休や育休を経て女性でも働きやすい企業が地元にあることを実際に知ってもらうことは若い世代がキャリアを考える上でとても重要なこと」と話す。 ■模索 ものづくり分野での学術交流も幅広い展開を模索している。 昨年は、まず互いを知ることから始めようと同大教員を招いた同社の事業所見学や技術マッチングイベントを開催。今秋にも同社磯原工場(同県北茨城市)で教授向け見学会を開き、具体的な技術連携の可能性を探る試みが続く。 同社によると、協定後に共同研究につながった事例はまだないが、材料分野だけでなく、生産効率の向上に向けたデジタル技術の活用など間接技術の分野での連携も視野に入れており、現在はマッチングで生まれた個別案件を支援しているという。 また、茨城大生向けのインターンシップや工場見学の受け入れも続けており、学生の間での企業認知度も高まっている。同社担当者は「連携協定によってお互いが柔軟にスピード感を持って取り組めている。これを各分野で継続していきたい」と話し、将来の人材確保につながることを期待する。
茨城新聞社