語彙を増やしても「相手に伝える力」が身につかない納得の理由
記録のすすめ
情報を集める際はメモをとる、録音する、動画撮影するなどします。本やインターネットで調べたことはメモ、インタビューは録音、現場取材は動画撮影というように、記録したい内容によって適した方法があります。 とはいえ、あとで整理しやすい方法なら、何でもいいと思います。本を読んで知ったこと、感じたことを自分で喋りながら短い動画にしておくというのもいいでしょう。文字で残すよりも、そのときの感情がよくわかる記録になります。 フィールドリポートでは、リポートの種類によって記録の仕方は違いますが、たくさん記録しながら進めていきます。2012年に起きた尼崎事件(尼崎連続変死事件)のように、複雑な事件は人物相関図をつくって情報を書き込みながら取材していきます。 やみくもに取材して回っても有力な情報は得られないので、次にどこに行って何を押さえるべきか、記録を見ながら組み立てていきます。 災害現場のリポートは、まず現地に足を踏み入れたときのファーストインプレッションが大事です。最初からカメラを回し、その場で感じたこと、気づいたことなどを喋りながら記録していきます。瞬間を逃さないようにというのもあって、大量に記録しています。これらをもとに、テレビで放送するものをつくっていくわけです。 実際に伝えるときの素材にはならなくても、記録はとても重要です。私は記憶力がいいほうですが、正確に覚えておくことは難しいですし、いつのまにか記憶の一部が抜けたり、変わっていたりということもあります。 新型コロナウイルスに罹患して入院したとき、私は自分の経過をスマホで録画して記録していました。2020年4月のことです。3月にはコロナ感染から志村けんさんが亡くなり、世間に大きな動揺が走っている頃でした。 報道番組のメインキャスターとして、感染拡大の防止を呼び掛けてきたのに、自分が感染してしまったのは本当にショックで申し訳ない気持ちでいっぱいでした。当時、ずいぶんお叱りの声もいただきました。 批判は受け止め、メインキャスターの穴をあけてしまうことを謝罪しました。ただ、もう感染してしまったことは仕方ありません。私は自分の症状や経過を伝えるべきだと思いました。コロナ感染後にどのような治療を受け、どのような経過をたどるのか。一つの例として伝えなければならないと思ったのです。 しかし、番組自体が批判を受けている中では、私が病院から伝えることを許可してはもらえませんでした。そこで、スマホで自分の状態を撮影しながら喋り、記録することにしました。記録したからといって、番組で伝えられるかどうかはわかりません。誰にも伝えることはできないかもしれない。それでも、一つの資料として記録を続けました。 私は「中等症Ⅱ」という、「重症」の一歩手前の状態でした。呼吸は苦しく、点滴を受けながら安静にしていなければなりませんでした。 「新型コロナウイルスの陽性反応が出て2日目の夜です。現在、熱は36度台で咳せきも出ていません。呼吸が浅くなっておりまして、トイレなどへ少し歩いただけで息が切れるような状態が続いています。レントゲンで見ますと、肺に白いもやもやとしたもの......、綿菓子のような感じですね。が、映っていました。血液中の酸素の量を測ってみます。......いまは96です。この値が90%を下回ると気を付けなければならないと言われております」 このような感じでスマホに向かって喋り、毎日撮影を続けました。具体的に、どのような治療をしているのか、血液検査の結果はどうなのか等、すべて記録しました。リアルタイムで伝えることはできませんでしたが、こうして撮りためた動画は、編集して一部お伝えすることができました。 2カ月後に番組に復帰する際に流すことになったのです。あとから「あのときはこうでした」と語ることもできますが、やはりそのときのリアルな状況の記録には価値があります。いまはスマホで簡単に動画撮影ができますから、思い立ったらすぐにできますよね。もちろん、紙とペンさえあれば書いて記録することもできます。将来伝える素材になりそうなものは、記録しておくことをおすすめします。
富川悠太(キャスター)