語彙を増やしても「相手に伝える力」が身につかない納得の理由
語彙は、人の話を理解するために増やす
伝える力を伸ばすために、まず語彙を増やそうと思う人もいるのではないでしょうか。語彙力は高いに越したことはありません。手持ちの言葉が多ければ、伝えるためによりよい言葉を選ぶことができます。 ただし、難しい言葉を使うことが目的ではありません。たとえば、頼んでいた仕事を提出してきた部下に対して「画竜点睛を欠くとはこのことだ」と言っても、伝わらないなら意味がありませんよね。相手がわかる言葉で言わなければなりません。 「ほとんどできているんだけど、肝心なところが抜けているよ」と言えば、よくわかるでしょう。追加してほしいものを具体的に指示すれば、齟齬もなくなります。 日本語には本当に豊かな言葉があります。学ぶのは楽しいし、知っていると使いたくなる気持ちもわかります。でも、ほとんどの場合、日常的な言葉で伝えることができます。伝えるときには、難しい言葉より平易な言葉のほうがよいことが多いのです。 ですから、自分が使うために語彙を増やすというより、「相手の話を理解するために語彙を増やす」と考えることをおすすめします。言葉を知らないと、相手の話が理解できません。これはマズイわけです。取材、インタビューでいろいろと話してもらっても、本を読んでも、知らない言葉にひっかかっていては、相手を理解するどころではなくなってしまいます。 私もアナウンサー試験に合格後、日本語検定のテキスト等を使ってかなり勉強しました。自分の語彙力が低いことは自覚していたので、必要な勉強でした。正直なところ、いまだに語彙力は高くありません。でも、そんな私にも後輩たちが「どうやって言葉を勉強したらいいでしょうか」と相談に来てくれます。 私は、「人の話を理解するために言葉を勉強するんだよ」と伝えています。熟語・ことわざ・故事成語などが網羅されているテキストや、難しい言葉を楽しく学べるような本はたくさん出ていますので、そういった本を使って学ぶのもいいでしょう。 もっとも効率がいいのは、ニュース記事や本などを読んで出合った難しい言葉を調べて理解することです。難しい言葉を理解して、やさしい言葉に言い換えることができるようになると伝える力もアップします。 自分では使わないビジネス用語や若者言葉も、相手の話を理解するためには学ぶ必要があるかもしれません。たとえば、次の文章をわかりやすく言い換えたらどうなるでしょうか。 【ビジネス用語の例】 ▼変更前 我々にとって、ボトムアップ型のアプローチによるイノベーションを創出し、パラダイムシフトを起こすことが喫緊の課題です。 ▼変更後 私たちはいま、大きく変化しなければなりません。現場からアイデアを集めて統合し、いままでにない新たな仕組みをつくり出す必要があります。 【若者言葉の例】 ▼変更前 ワンチャン、このプロジェクトはチートイベントになるかも。神ってる感じのアイデアがどんどん出てきて、社内の雰囲気がヤバイ。ユーザー目線でいっても、マジで推せる。 ▼変更後 このプロジェクトは、これまでにないレベルで成功するかもしれません。素晴らしいアイデアがどんどん出てきて、社内の雰囲気は活気にあふれています。利用者の立場で考えても、おすすめしたいです。 ここでは一般的な言葉に直してみましたが、これが正解というわけではありません。言葉は伝える相手によって変わります。普段からビジネス用語をよく使う人に向けて話すなら、ビジネス用語を使ったほうがわかりやすいでしょう。若者言葉も然りです。 伝える力のある人は、伝えたい相手の言葉に敏感です。相手の言葉に合わせることができると、より伝わりやすくなるのです。