航空業界のカスハラ、ライバルが手を組み根絶目指す 全日空と日航が指針を共通化
全日本空輸(ANA)と日本航空は28日、社会問題化するカスタマーハラスメント(カスハラ)の対策方針を共同で策定したと発表した。カスハラを受けた社員の離職が相次ぐ中、正当なクレームとの線引きが難しいカスハラの定義や該当行為を明確にして対策を講じ、迷惑行為に厳しく対応する。両社は業界団体を通じ、他の航空会社にも対処方針の策定を促し、業界全体で対策を本格化させる。 「共同で取り組むことで社会に広く発信し、働きやすさを追求する」。ANAの宮下佳子CS推進部長は28日の会見で対策方針策定の狙いを語った。 対策方針では、カスハラ行為を「暴言」や「脅威を感じさせる言動」「過剰な要求」、「業務スペースへの立ち入り」など9項目に分類。「能力を否定する侮辱的な発言」は暴言に当たるといった具体的な行為も例示し、従業員がカスハラ被害を受けたかどうかを判断しやすくした。 今後は対策方針を企業情報サイトに掲載する対外的に発信して顧客や社会の理解を深めるほか、対応についての社員教育や業界全体で定期的な意見交換会などを実施し、対応力を磨く。 両社によると、カスハラ行為は昨年度だけでそれぞれ約300件。「現場の体感としては増えているとの声が聞かれる」(ANA担当者)という。 航空業界は顧客との接点が多岐にわたり、チェックインや搭乗案内を行う従業員やコールセンターでの被害は特に多い。便の欠航時に暴言を受けるなどの被害も多発している。また、機内でのサービス提供やフライト中の安全確保を担う客室乗務員は、顧客と長時間にわたり機内に同乗する。閉鎖的な環境でハラスメント行為は、心理的負担がより増大する懸念がある。 人手不足に苦しむ航空業界では従業員の定着という観点でも安心して働ける環境づくりが欠かせない。カスハラに起因する離職者を減らし、顧客にとっても安心安全な空路を維持したい考え。日航の上辻理香CX推進部長は「今後は業界全体に広げたい」と話す。 政府は今月閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に「カスハラを含む職場におけるハラスメントについて法的措置も視野に入れ、対策を強化する」と明記。厚生労働省は、企業に従業員の保護を義務付ける内容を盛り込んだ労働施策総合推進法改正案を来年の通常国会で提出する方針で、国もカスハラの対策に本腰を入れ始めている。(重川航太朗)