大腸がんステージ4から4年生きた妹、膵臓がんから生還した弟に学んだ…研究者指摘「がんの意外なメリット」
■妹は大腸がんで、ステージ4で4年生存した 私の妹は、肝機能の異常を指摘され、CTを撮ったところ、直径10cm大をはじめとして複数の転移巣が肝臓に発見された。原発がんは一番発見しにくい小腸と盲腸の交差点の大腸がんであった。妹も私も諦めかけたが、千葉大学病院の松原久裕消化器外科教授から、「今のがん治療は、先生の時代とは違うので、治療を受けてください」と言われた。 実際、それから4年間化学療法を受けながら、彼女はほとんどの時間を家で家族と暮らすことができた。その間、小学校低学年だった孫は6年生にまで成長した。助けることができなかったのは残念であったが、この4年間は、彼女にとって大きな贈り物であった。 ■マイポリープ、自身も大腸がんになった経験 私の弟妹の話が続いたが、次は私自身の早期がんである。56歳のとき、できたばかりの大腸がんを発見し、以後毎年大腸検査を受け、今日まで31年間になんと58個のポリープをとった(図表1)。 最初のポリープは、ドイツのハイデルベルクに出張していたときであった。出血の様子から痔だと思った。ネッカー川にかかる橋の上からハイデルベルクの古い街並みを見ながら、これでは、「アルト・ハイデルベルク」ならぬ「へモ(編集部註:ヘモは痔のこと)・ハイデルベルク」だと思った。
■31年間で合計58個もの大腸ポリープを摘出した 日本に帰ってから、スキー仲間の大倉久直(国立がんセンター)に内視鏡検査をお願いしたところ、直腸に10mmくらいの双子山状ポリープが見つかった。顕微鏡標本を見たところ、なかなか立派ながん組織が粘膜内にあった。粘膜の外に出ていないので、これなら大丈夫だろうと、自分で顕微鏡を見て確信した。 ポリープが10mmになる前に切除しているので、その後がんはひとつも見つかっていない。このくらいの数になると、取る方も取られる方も、今年はいくつかと楽しみになってくる。 ■がんの罹患、死亡リスク 国立がん研究センターは、一生のうちにがんと診断される確率とがんで死ぬ確率を計算している。 日本人が一生のうちにがんと診断されるリスク(2019年) ・男性:65.5%(3人に2人) ・女性:51.2%(2人に1人) がんで死亡するリスク(2022年) ・男性:26.2%(4人に1人) ・女性:17.7%(6人に1人) ■医学の進歩で、がんの3分の2は助かる病気になった どんながんが多いのであろうか。 ・男性:前立腺がん>大腸がん>胃がん>肺がん>肝がん> ・女性:乳がん>大腸がん>肺がん>胃がん>子宮がん 治療成績のよい前立腺がん、乳がん、早期発見しやすい大腸がん、胃がん、子宮がんが上位のがんに名を連ねているのは、不幸中の幸いと言うべきかもしれない。 5年生存率 がんの治療成績は、診断から5年後の生存者で判断される。2009年から2011年にがんと診断された人を5年間にわたり追跡した「5年生存率」は、 ・男性:62.0%(5人に3人) ・女性:66.9%(3人に2人) である(この数字は、がん以外で死ぬ確率で補正した「相対死亡率」である)。がんになっても、およそ3分の2は助かっていることになる。 このように、がんの3分の2は助かる病気になった。確かに、わが国の死亡原因の第1位はがんであるし、難治性のがんは少なからず存在するが、身の回りを見てもわかるように、がんから回復した人、闘病中でありながら普通に暮らしている人はたくさんいる。しかし、ひと昔前、1960年代までは、がん告知は死刑宣告と同じように受け取られていた。今では、「告知」という言葉も使わなくなった。