オーストリア総選挙で「ナチス礼賛」の自由党が第1党、背景にコロナ禍で政府の規制より「個人の自由」を擁護
自由党支持者は抗議票を投じたわけではない
オーストリアの右傾化と欧州全体への影響は表層的ではない。この選挙結果を「抗議票」や漠然とした政治批判と見なすべきではない。キクルは極右の中の極右であり、人々の醜悪な本能を刺激する。彼の勝利は、欧州の極右勢力が1990年代から描き続けてきたシナリオに新たな1ページを書き加えた。 ウィーンの研究機関、オーストリア・レジスタンス資料センターのアンドレアス・クラネビッター所長は、「この数十年で、今ほど国民の間で人種差別主義や反ユダヤ主義が高まり、外国人を嫌悪し、移民に敵意を抱く人が増えている時はない」と述べる。 クラネビッターによれば、自由党はこの傾向に拍車をかけ、「人民宰相」や「民族共同体」といったナチス的な用語を党綱領に再び採用している。「これらは右派の過激派の間で通じている隠語で、新しい支持者にも容認する人や無関心な人が増えている。そこには女性や専門職、大卒者、若者も含まれる」 ドイツのレーゲンスブルク大学のオーストリア歴史学者であるウルフ・ブルンバウアーも、自由党支持者は抗議票を投じたわけではないと考えている。 「今日、自由党はエスタブリッシュメントの政党だ。オーストリア国民は、自由党が人種差別主義的で権威主義的であり、キクルが憎悪に満ちた親ロシアで反移民であることを十分理解している。彼らに投票する人の大半はイデオロギー的な信念からだ。オーストリア社会の平均的な人をほぼ反映している」
「働きたくない人のための制度ではない」
【コロナの制限がきっかけ】 自由党の台頭は、オーストリアの伝統的な保守政党である国民党を変貌させた。社会世論の変化の結果にせよ、自由党がそれを利用することに成功した結果にせよ、国民党は自由党に対抗していないどころか、移民に関する同党の姿勢を受け入れている。 国民党党首のカール・ネーハマー首相は今年に入り、難民申請者に対して国内居住の最初の5年間は社会給付の支給を拒否するなど、保守派の有権者に向けたポピュリスト的政策を相次ぎ打ち出した。 「われわれが望むのは、働けない人のための社会福祉制度であり、働きたくない人のための制度ではない」とネーハマーは移民を批判して述べた。 同国の保守系日刊紙プレッセは、移民問題に関する国民党の政策は「自由党とほぼ区別がつかない」とし、「そうした政策の支持者は皆、以前から自由党に投票している」と指摘した。国民党が今回失った得票率の11ポイントは、大部分が自由党に流れた。 パンデミックが自由党の再浮上に重要な役割を果たしたとの指摘もある。オーストリアが21年後半にワクチン接種を義務化すると、キクルは「今日からオーストリアは独裁国家だ」とぶち上げた。自由党の支持率は30%前後に上昇し、同党はスキャンダルによる低迷から脱した。
ヨーロッパの極右の主唱者の仲間入り
スイス紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングは、オーストリアの抑圧的なコロナ政策について「その施策の多くがワクチン接種者と未接種者を区別した。そのため国に差別されていると感じた人々の間に深い憤りが生じた。その感情は、厳しい制限の記憶よりもはるかに長く人々の心に残っている」と論じた。 2000年と同様、自由党はいま再びヨーロッパの極右の主唱者の仲間入りをし、かつて信頼を失った極右政党が政治文化全体を覆し、傷つけることが可能であることを証明した。この教えは、中欧の他の親ロシア派のポピュリストに刻まれるだろう。 From Foreign Policy Magazine