なぜコンビニ以上に調剤薬局があるのか 「クスリを出さない」発想が求められる理由
カフェ併設の新業態
薬局ハカラメディコは体に良い食事を日常的に食べて健康を保てば、特に薬など必要としない「薬食同源」をコンセプトに掲げており、薬膳チキンカレーや、体の悩みにあったハーブティーを提供するカフェを併設しているのだ。 もちろん、大手もカフェ併設を展開しており、そこで健康的な食事などを提供している。例えば、全国に153の調剤薬局を展開する新生堂薬局(福岡市)は2024年9月に福岡で新業態「新生堂ヘルスケアステーション薬院」をスタート。これは計測器で知られるタニタ(東京都板橋区)の「タニタカフェ」とコラボしたイタリアンレストランを併設し、健康的なワンプレートランチやパスタ、ハーブティーなどを提供している。 今後、調剤薬局の競争が激化していく中で、このような「健康カフェレストラン併設型」は増加していくだろう。だからこそ、個人経営の調剤薬局はそこからさらにもう一歩踏み込んでいく。つまり、「食事で健康をサポート」するのではなく、「最終的には薬に頼らない状態を目指す」と打ち出すことで、大手と明確に差別化していくのだ。 もちろん、病気ならば薬は必要だ。しかし、ちょっと熱が出た、咳が出たくらいで抗生物質を処方するような国は世界では少ない。 例えば、米国でも高額な医療費の抑制を目指して今から10年ほど前、医師らで構成する非営利組織、米国内科専門医認定機構財団(ABIM財団)が中心となって、「Choosing Wisely」(賢い選択)というキャンペーンが行われた。 そこでは、無駄なCT検査などとともに「抗菌薬はウイルスに効果なし」ということが繰り返し訴えられた。むしろ「害」のほうが大きいという指摘も多かった。抗菌薬は腸内細菌に影響を及ぼし、体にとって必要な菌まで殺してしまうからだ。しかも繰り返し服用すれば、「薬剤耐性菌」が発生しやすくなるというリスクもある。
WHOも推奨
これは「薬は毒」みたいな陰謀論的な話ではない。WHOでも抗菌薬の使用を減らすアクションプランを採択しているし、日本の厚生労働省が発行する「抗微生物薬適正使用の手引き」でもこう述べている。 「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」 しかし、現実はどうか。皆さんもちょっと体の具合が悪くなると病院に行って、「やっぱり市販薬よりも病院の薬は効くので」なんて言って薬を処方してもらうのではないか。そして、調剤薬局でもそれをもとにバンバン薬が出されていく。 こういう「過剰処方」という状況に対して「薬のプロ」であるはずの薬剤師、調剤薬局は何をしているのかと疑問に思う人も多い。もちろん、中には「うちの調剤薬局ではずっと注意喚起をしてきたぞ!」という方もおられるだろうが、米国で行われたような業界を挙げたキャンペーンがあったわけではないので、このような問題も世間的にはほとんど知られていない。 ならば、「薬を出さないことをゴールにした調剤薬局」があってもいいはずだ。 このような「自己矛盾としっかり向き合う」という捨て身の戦い方は、調剤薬局以外でもできる。例えば、コンビニの店舗は「社会インフラ」ともてはやされながらも、かつて成長エンジンだったドミナント戦略の影響を受けて、都市部や幹線道路などのロードサイドに多く、過疎地には少ない、という問題があった。 しかし今、その自己矛盾に向き合うかのように、ローソンは過疎地に積極的に出店を進めている。もともとローソンはコンビニ大手3社の中でも地方店を多く抱えており、高齢化率の高い地域で高シェアを保っている。そこでこのような特性を生かして、過疎地に「商機」を見い出そうとしているのだ。 レッドオーシャンでは、多数派と同じことをするプレーヤーは滅んでいくだけだ。それは裏を返せば、「薬を出さない」に舵(かじ)を切った少数派の調剤薬局が「健康」「美容」「高齢者」「地域社会」などを切り口に、さまざまなコラボやスピンオフを仕掛けていくということでもある。 コンビニより多い社会インフラ、約6.2万の調剤薬局が今後どのような「進化」を遂げていくのか注目したい。 (窪田順生)
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