「そんなうまい話が…」マイナー競技選手も戸惑う好条件提示 働くのは年1~2カ月、経費かかっても地方の中小企業が支える理由
ノルディックスキー距離の馬場直人(27)、山岳を駆けるスカイランニングの小田切将真(30)、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪で初採用になる山岳スキーの島徳太郎(24)。中野土建(中野市)には、それぞれの分野で活躍する国内トップの3選手が所属する。 【写真】北京五輪に出場したノルディックスキー距離の馬場直人
22年北京冬季五輪に出場した馬場は長距離が得意な日本男子のエース。小田切は昨年のワールドシリーズ第12戦で初優勝し、年間総合7位に入った。島は2月の日本選手権の個人で4連覇した。 3人の共通点は、持久力があって駅伝にも対応できる能力。同社が選手を雇用した元々の理由は、毎年秋の県縦断駅伝で中野下高井チームを強くしたいという意外なものだった。
中野土建の蔵谷伸一会長は、若い頃から駅伝やマラソンが大好き。苦しい時も頑張る姿に魅せられ、テレビ中継は欠かさず見る。その一方、県縦断駅伝で地元チームが下位で苦戦している姿を残念に思っていた。 そこで20数年前に「中野下高井チームを強くする会」をつくり、07年にはクラブチーム「NDF」を立ち上げて監督に就いた。こうした活動の中で、馬場と出会った。
下高井郡山ノ内町出身の馬場は小学4年の時、兄の応援に行った市町村対抗駅伝で蔵谷会長と会い、「スキーをやるんか。駅伝もやらないか」と声をかけられた。中野立志館高時代は3年連続で県縦断駅伝を走った。 その後も交流が続き、大学卒業後の就職を考えた時、真っ先に相談したのが蔵谷会長(当時社長)。地元で競技を続けたい希望を伝えると「じゃあ中野土建に入りなさい。県縦断駅伝も走ってもらう」と言われ、20年4月に入社した。 蔵谷会長は「一番気にしたのは社員がどう思うかだった」。冬は海外遠征が続き、夏も合宿がある。実際に働くのは年に1~2カ月ぐらい。経費がかかり「社員のモチベーションが落ちるのではないか」と懸念した。 ところが、過酷な競技に向き合ってぐんぐんと力を伸ばす姿に、社内の応援ムードは高まった。馬場の五輪出場などで「会社の信用にもつながり、社員の士気が上がった」と受け止める。