ティモシー・シャラメに訊く──マーティン・スコセッシ監督によるシャネルのフレグランス「ブルー ドゥ シャネル」キャンペーンフィルムがついに公開!
ティモシー・シャラメ×マーティン・スコセッシによる待望の「ブルー ドゥ シャネル」キャンペーンフィルムがついに公開した。主演を務めたシャラメが、スコセッシとの撮影舞台裏や、シャネルとの自由な創作について、US版『GQ』のインタビューに語ってくれた。 【写真26枚】ティモシー・シャラメ×マーティン・スコセッシ「ブルー ドゥ シャネル」撮影時のオフショットをチェック! ティモシー・シャラメとマーティン・スコセッシが、ニューヨークでシャネルのフレグランス「ブルー ドゥ シャネル」のキャンペーンフィルムを撮影したのは昨年の春のことだった。撮影現場の二人の姿はソーホーの街角でキャッチされ、クイーンズ区アストリアの高架鉄道の駅では夜通し撮影が行われた。「私たちがクイーンズにいたのは朝の4時にもかかわらず、彼は駅の階段を勢いよく駆け上がっていきました」と、シャラメは2023年11月のカバーストーリーで、当時80歳だった監督と過ごした時間を回想して語っている。 この90秒の新たなキャンペーンフィルムは、フェデリコ・フェリーニによる1968年の短編映画『悪魔の首飾り』にインスパイアされたもので、香りを売り込むための宣伝というよりも、フィーリングを伝えるムードボードのように仕立てられている。楽しく、クールで、とても“ブルー”だ。 「60秒(最終的には90秒となったが)でストーリーを伝えられる力強いイメージの創造は、おそらく最も難しいことです」と、スコセッシは舞台裏映像の中で強調している。昨年秋に公開される予定だったこの動画は、冬の間じゅう延期された。シャラメの動向に敏感なファンたちは、このショートフィルムがどこへ行ってしまったのか、熱心にその答えを探ろうとしていた。 しかし、ついに今、その待望の作品がここにお目見えした。 この2カ月ほど、ジェームズ・マンゴールド監督によるボブ・ディランの伝記映画『A Complete Unknown(原題)』の撮影にかかりきりのシャラメだが、動画の公開に合わせ、特別に『GQ』のインタビューに応じてくれた。映画を撮影中のシャラメは日常から自身を切り離すのが得意だ。彼はニューヨークに戻ってきてはいるが、静かに身を潜め、ごくたまにしか外出をしないでいる。そんなシャラメは、ニューヨークで最高の香りを放つ店だと彼が言う「シ・シアーモ」でディナーを食べたばかりだった。「現実を疑うほどの体験です」と、彼は言う。「これはキュレーションされたものなのか? これが4DXなのか? とね」 ディナーを終えた彼からコールがあったとき、時刻は0時を回っていた。母の日である。 ──ハッピー・マザーズデー。さあ、始めましょうか。 ええ、始めましょう。ハッピー・マザーズデー! ──お母さんには何かプレゼントしましたか。 もちろん。今、母は姉と一緒に西海岸にいますので、早めにお祝いをしました。母が発つ前に(ブロードウェイのミュージカル)『Stereophonic(原題)』を一緒に観に行きました。素晴らしかったですね。 ──マーティン・スコセッシと「ブルー ドゥ シャネル」のキャンペーンフィルムを撮影してから1年が経ちましたね。昨春にソーホーで撮影したときのことを思い出して、心に残った瞬間やイメージ、演出などはありますか? そうですね、パッと思い浮かぶのは2つ。一つは、初めてマーティの家を訪ね、夕食をとりながら動画の大まかな流れや、彼がどこからインスピレーションを得ているのかについて話し合ったことです。フェリーニのこと、また彼がギャスパー・ウリエルと撮った最初の「ブルー ド シャネル」のキャンペーンフィルムのことなんかね。私たちの動画の13年ほど前だったでしょうか? その会話で打ち解けることができたので、印象に残っています。 もう一つは、撮影初日に気づいたことです。マーティの才能の根っこには、現場で偶発的に起きたことに対し、それをただ受け入れるというオープンな姿勢があるのだとね。例えば、撮影中のカメラが思いがけず私の胸にぶつかったことがありました。キャンペーンフィルムで使われているのはそのテイクなんですよ。これは、何度でも学ぶ価値のある教訓です。俳優であれ、監督であれ、あらゆるクリエイターにとって、失敗は最大の友であるという教訓です。たとえ、それがマーティン・スコセッシであったとしてもね。 ──具体的に、どのようなハプニングだったのでしょうか。 文字通りの初日でしたから、そこにいるのは新顔のクルー、新顔のカメラマンたち。誰もがお互いに、見知らぬ仲間を相手に手探り状態で仕事をしていました。もし撮影場所が、見物人がいるニューヨークの公道でなかったら、もっとリハーサルをしていたかもしれません。 おそらく私は……いや、私が停止位置を踏み越えたのかもと言いかけたのですが、ビルから飛び出してきたばかりの出来事だったから、それは違うでしょう(笑)。ただ単にうまくいかなかったんですよ。それでも、あのテイクが完成した動画に使われました。 もちろん、名監督というのは何十年にもわたる経験や、偉大な先人たちからのインスパイアの上に成り立っているのは確かですが、マーティン・スコセッシでさえ、与えられた素材で作品を完成させる能力が問われるものなのです。そこに飛び込むことができたのは、私にとっても素晴らしい体験でした。 ■シャネルが与えてくれた純粋な創作の場 ──(スコセッシ監督のドキュメンタリー)『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』の冒頭で、スコセッシとクルーがストーンズのコンサートを撮影するために照明をセッティングしている、おかしな場面を思い出しました。照明機材があまりにも強くステージに照りつけるので、彼はこう言いました。「ミック・ジャガーを火炙りにするわけにはいかない。映像の効果としては好ましいが、彼を丸焼きにはできない」。ここでも同じですね。ティモシー・シャラメを気絶させたり、初日に肋骨を3本折らせたりなんて考えられません。 (笑って)今回、彼はそこまで気を揉んではいなかったですよ。 ──お二人は動画の撮影を素早く、効率的に終わらせ、すぐにまた別々の道を歩むことになりました。そして秋には「ブルー ドゥ シャネル」のディナー、また『GQ』での対談動画の撮影のために再会しましたね。キャンペーンフィルムの撮影以来、お二人の関係はどのように変化しましたか? 最初に彼と会ったのは何年も前で、レオ(・ディカプリオ)が一緒でした。今撮影している(ボブ・ディランの)映画の準備をしているときにね。というのも、マーティがこの題材に精通しているのは明らかでしたから(注1)。それと、彼がその夜、ロビー・ロバートソンと食事をする予定だったのもあります(注2)。彼に会ったのはそのときでした。 シャネルのキャンペーンに取りかかる頃には、ある程度の親交がありました。彼と本当に打ち解けたのはそれからです。私からは自分の視点での話しかできませんが、世代間のギャップがあったとしても、クリエイターとして、またニューヨーカーとしての私たちの感性には近いものがあり、『GQ』の動画でも非常にいい対談ができたと思っています。それからも、彼にはますます親しみを憶えるばかりです。 今回のキャンペーンフィルムは、クリエイティブなコラボレーションの場として最適なものだったと思います。大きなプレッシャーはありませんでした。シャネルのために何かを創り出すという大事な目的があったのは確かですが、何よりも2人のクリエーターとして対面する機会でもありました。彼が卓越した仕事をし、私が演技をする、という純粋な創作の場です。収益を気にしながら3~6カ月をかけて製作される、映画のようなプレッシャーや現実問題はそこにはありませんでした。 注1)スコセッシはボブ・ディランを題材にしたドキュメンタリー映画として、『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』、『ローリング・サンダー・レヴュー: マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』の2本を監督している。 注2)スコセッシ作品の音楽を多数手がけてきたロビー・ロバートソンは、60年代にザ・バンドの前身であるザ・ホークスのメンバーとしてディランのツアーやレコーディングに参加している。 ──とてもオープンで、クリエイティブかつ自由な雰囲気は確かにユニークですね。 ええ、シャネルには感謝の気持ちでいっぱいです。マーティ、それに彼と共同で脚本を書いたアルフォンソ(・ゴメス=レホン)ともども、本当に自由にやらせてもらいましたから。かれらはフォーカスグループ主導のマーケティングや、私が想像するようなプロダクトの宣伝企画とは対照的に、私たちが望むやり方でこの作品に取り組ませてくれました。このことは、ブランドのレガシーや、かれらのアートに対する理解を物語っています。シャネルには映画製作に関わる部門があり、史劇のプロダクションにまで携わっているほどですから。私が今取り組んでいる作品ではなく、また別の作品のことですが。 ──私が最後にあなたに会ったのは昨秋のことで、ちょうどスコセッシ監督が自作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のプライベート試写会にあなたを招待したところでした。試写室のドアが閉まった後、まるまる3時間半そこにいたのですか。 ええ、彼のプロダクション・オフィスに、キャンペーンフィルムの関係で追加作業に立ち寄ったときのことです。撮影ではなくて、ちょっとしたポストプロダクションのためにね。マーティン・スコセッシの新作を、彼のプロダクション・オフィスで観るチャンスを逃すわけがありません。というのも、フィルムが編集され、作品が生み出される現場には気迫が感じられますから。作品には衝撃を受けました。マーティの演出はもちろん、レオとリリー・グラッドストーン、そしてジェシー・プレモンスの演技にも感動しました。(原作者)デイヴィッド・グランにハマるきっかけにもなって、それ以来彼の著作をむさぼるように読んでいます。 ──グランへのハマりっぷりについて聞かせてください。 『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』は読みました。それから、『絶海 英国船ウェイジャー号の地獄』を終えたところです。『ウェイジャー』はとにかく最高。座りっぱなしのまま、一日で読み終えてしまいました。 ──秋以降、スコセッシ監督とは話をしましたか? 今後のプロジェクトについての話題などありましたか。 彼とはゴールデングローブ賞の授賞式で会いました。彼がフランク・シナトラの伝記映画に取り組んでいるのは、少なくとも噂としては知っています。彼と何かやれたらいいですね。でも、ニューヨークの路上でマーティと仕事ができたという意味では、すでに最高の機会が得られたとも思っています。撮影中、彼は『アフター・アワーズ』を監督したときのことを思い出したと言っていました。早撮りだったという点でね。 映画製作において、今の彼はより大作指向になっていると思います。我々観客にとってはうれしいことです。一方、私たちが作ったのは90秒のキャンペーンフィルムですから──もちろん『アフター・アワーズ』や『ミーン・ストリート』と同じカテゴリーに入れることはできませんが──製作期間の短いそれらの小作品に近いものでした。5日間で完成させなければならなかったとしても、オクラホマで6カ月かけて撮影した大作よりは、それらニューヨークを舞台にした映画に似ているのです。 ──前回、『GQ』2023年12月号のカバーストーリーで話し合ったときは、ちょうど(シャラメの主演作)『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』と『デューン 砂の惑星PART2』の公開が控えていたタイミングでした。今のあなたは当然ディランのことで頭がいっぱいだと思いますが、過去を振り返ってみてどう思いますか? 多大な感謝の気持ちしかありません。そして、新しいことにすぐに挑戦できる機会に恵まれていることにも感謝しています。キャリアの初期や、映画以外のプロジェクトが成功したとき、その成功に応える最良の方法は何だろうかと考えていました。今回、私は正しい方法をとったように思います。もし正しい方法というものがあるとすれば、の話ですが。それは、自分が刺激を感じ、取り組みたいと思える企画に取り組み続ければいいんだというゴーサインとして、成功をただ受け止めることです。そして、謙虚になって、壁に釘を打ち続けることです。 自分の気持ちを筋道立てて話せばそうなりますが、素直な気持ちを言えば、今はとにかく別のことに夢中になっているんです。映画という奇妙なメディアでは作品が世に出るまでに何年もかかります。その中で仕事をしていると、人よりも何十キロも先を歩いているような気がしてくるんです。 ──映画においては、未来を生きているんですね。 そうですね。 ──トラボルタの件についてはどう思いますか。『ウォンカ』と『デューン2』の興行的成功で、あなたはジョン・トラボルタ以来、8カ月以内に公開された2本の主演作が大ヒットを記録した最初の俳優となりました(注3)。もちろん、「この記録はいつ破られるのだろうか?」と誰もが楽しみにしていたわけではないでしょうが、ある種の注目度を表す指標としては興味深いものです。つまり、 同じ俳優が主演した映画が立て続けにスマッシュヒットを飛ばすなんて、いったい何を意味するのだろうかと。 (しばらく考え込んで)気取り屋に聞こえるかもしれませんが、あのおかげで、自分が使いたい色を使いたいときに使って、自分の絵を描いていいんだと背中を押されました。歳をとればとるほど、そうである気がします。マーティの『アフター・アワーズ』が、公開当時の観客の反応に反していかに時代を超えて生き残ってきたか。その瞬間に取り組んでいることにただ集中すべきなのです。大小にかかわらず、自分が取り組みたいと思うことを信じ続けよう、とね。 注3)1977年12月、1978年6月にそれぞれ全米公開された『サタデー・ナイト・フィーバー』と『グリース』の2作品で、ジョン・トラボルタは国内興行収入1位を達成した作品に、8カ月のうちに2本主演した俳優として最短記録を打ち立てた。シャラメ主演の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』と『デューン 砂の惑星PART2』は、それぞれ2023年12月と2024年3月に全米公開された。 ──(シャラメがファンであるNBAの)ニューヨーク・ニックスの戦績はどうなると予想しますか。 なんてこった。今シーズンは、ニックスが6試合4勝で地区決勝進出と言いたいところですね。ボストン(・セルティックス)との試合はどうなることか。 ──プレイオフは観戦していますか。 いえ、新しい映画に集中していますから。このインタビューも、この2カ月で私が関わった最もエキサイティングで、初めての経験についてです。神に誓ってね。 ──でも、ニックスが東地区決勝に進出したら、あなたも姿を見せるはずでしょう。 もちろん。間違いなく行きます。 From GQ.COM By Daniel Riley Translated and Adapted by Yuzuru Todayama