ミュージカル『翼の創世記』石丸さち子・上川一哉 インタビュー
ウィルバーとオーヴィルのライト兄弟が世界で初めて動力有人飛行を成功させたことで、世界は飛行機の時代を迎える。不屈の精神で偉業を成し遂げたふたりと、彼らを支えた妹キャサリン。彼らの愛と希望、そして絶望を、石丸さち子がミュージカルとして描き出す。兄のウィルバーに上川一哉、上口耕平、鈴木勝吾、百名ヒロキ、弟のオーヴィルに鈴木勝吾、工藤広夢、DION、妹のキャサリンに門田奈菜、福室莉音、山﨑玲奈と選りすぐりのキャストを配し、出演者3人で紡ぐ物語とは。石丸さち子と上川一哉が、わくわくするような挑戦を語ってくれた。 【全ての写真】上川一哉、石丸さち子の撮り下ろしカット
想像の翼を広げ、ライト兄弟をミュージカルとして描く
――今回、ライト兄弟を取り上げたのはどうしてですか。 石丸 自分の中に、ずっと“ライト兄弟”っていう小さな種があったんです。きっかけは、だいぶ前に読んだライト兄弟のインタビュー記事。彼らは初めて動力有人飛行を行ったけれど、すぐに第一次世界大戦が起こり、飛行機は生まれて10年も経たないうちに戦争の道具、兵器にされてしまった。そして二つの大戦を見届けたオーヴィルはことあるごとに、まるで彼らが戦争責任者であるかのように「爆撃機を生み出したことをどう思いますか」と問われ続けました。それでもオーヴィルは晩年の最後のインタビューに至るまで「飛行機は平和利用できるものだ」と言い続けたんです。不断の努力で生み出した夢のような産物があっという間に自分の手を離れて軍部のものになってしまったことを、どう思っていたんだろう。「死の商人」と呼ばれ続けて、その後は飛行機にも乗らず、どんな人生を過ごしたんだろう。そういう興味でアメリカに行って、まだ日本語に翻訳されてない資料を探し、翻訳し、想像の翼を広げて出来上がりました。 ――上川さんは、この作品の出演が決まってどう感じましたか? 上川 僕が劇団四季を退団して、最初にご一緒させてもらった演出家が石丸さんだったんですよ。 石丸 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』(2022年)でしたね。 上川 いろいろ勉強させていただいたけど、ちょっと悔しさが残った自分がいたんです。もちろんその時は精いっぱいやったけど、何かもやもやしていた。それ以来共演することの多かった伊礼彼方さんにも、ずっと「なんか悔しいんですよね」って言い続けていたくらいです(笑)。だから石丸さんとはまたご一緒したかったし、もう一回今の自分で石丸さんにぶつかってみたい。それが一番の理由です。 ――ライト兄弟3人の中で、やはり中心となるのはウィルバー、そしてオーヴィルですね。 石丸 彼らは父親にも「双子じゃないか」って言われたくらい、すべて補い合い、強い愛情で結ばれていました。生涯結婚することもなく、飛行機と兄弟と共に生きたんです。そしてミュージカルにしようと思ったのは、私がすごく愛している小説『われらが歌う時』(リチャード・パワーズ、新潮社)でアメリカに移住してきたユダヤ人家庭の、のちに音楽家となる兄弟が迫害を受けた時、路地に逃げ込み、ハモるんです。声を出して、3度なり5度なりでハモるだけで心が落ち着く。その場面が心に残っていたので、ライト兄弟を描こうと思った時に「ハーモニーで兄弟の絆を描こう!」と。 上川 台本を読んだ時、「石丸さんはなんでこれをストレートプレイにしなかったんだろう」と思ったんです。でも今の話を聞いて「なるほどな」って。 石丸 2時間くらいの1幕ものの予定ですが、歌唱曲は39曲あるし、アンダースコアもずっと入っているので、音楽で紡いでいく非常にミュージカル的なつくりになると思います。