「静岡わさび栽培」で注目、世界農業遺産って何?
日本食に欠かせないわさび。渓流などを利用して栽培する水わさびと畑で育てる畑わさびがあるが、わさび栽培全体から言えば水わさびが圧倒的に主流だ。静岡はその水わさびの産地。栽培面積、根茎の生産量ともに全国トップを誇る。その静岡のわさび栽培がこのほど国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定された。しかし、そもそも世界農業遺産とは何か?
わさび栽培発祥の地「有東木」
静岡市の市街地から車で約1時間、山の間を縫って走る幹線道路を折れて、さらに勾配のある道をのぼっていくと有東木(うとうぎ)と呼ばれる地区に至る。清流が流れ、その脇には青々としたわさび田があちこちに広がっている。この70戸ほどの地区が、わさび栽培発祥の地なのだ。 わさびはもともと山に自生しているものを採って食していたようだ。400年以上前の慶長年間(1596~1615年)に有東木からわさび栽培が始まり、駿府城で晩年を過ごしていた徳川家康にも献上されて、おおいに気に入られたという言い伝えが残っているという。 わさび栽培は、有東木から伊豆へと伝播し、明治25(1892)年ごろ、現在の伊豆市にて畳石(たたみいし)式のわさび田が開発された。 畳石式は、地盤を深く掘り下げて底部に大きな石、その上に小さな石を積んで表面に砂をのせ、水深1~2センチの水をはってわさび田を作るもの。こうすることでわさび田の水は地中に浸透していき、常に新しい水を田に供給してわさびが栽培できるようになった。 その結果、良質のわさびがたくさん収穫できるようになり安定生産が可能になった。畳石式によるわさび栽培は、伊豆からわさび栽培発祥の地の有東木、富士山麓の御殿場や小山、さらに静岡県西部の浜松市天竜地区まで静岡県内に広く普及し、今日の産地化をもたらした。
19カ国49地域、最多は中国、2位日本
有東木地区で17代にわたり、わさび農家を営んでいる白鳥義彦さん。「有東木のわさびは、アルカリ玄武岩の山の地層を通って流れ出た水で作られているので美味しいのです。昔の人が遺した(わさび田の)石積みを見るにつけ、先人たちの苦労を実感し、守っていかなければという思いになります」と話す。 そんなわさび栽培発祥の地である有東木や畳石式栽培を開発した伊豆地域が今春、世界農業遺産に認定された。 農林水産省によると、昨年3月に宮城県大崎地域、静岡県わさび栽培地域、徳島県にし阿波地域の3地域に対し世界農業遺産への認定申請を承認し、昨年11月に宮城が、そして今年3月に静岡と徳島が世界農業遺産に認定されたという。 ちなみに宮城県大崎地域では大崎耕土と呼ばれる農業地帯が広がっていて、大崎耕土では鎌倉期からの伝統的な水資源の管理システムが継承され農業が行われている。また、徳島県にし阿波地域では、急な傾斜地で独自の農具を使った耕作技術により段々畑を作らずに農業が営まれている。 農林水産省によると、世界農業遺産は「伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化や多様な生物などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムをFAOが認定する仕組み」で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産が有形の文化遺産や自然を認定しているのに対し、世界農業遺産は無形の農業システムの保全を目的にしている。 2002年の制度創設以来、これまでに19カ国49地域が認定されている。国別では中国が15地域と世界でもっとも多く、日本は2011年に新潟県佐渡市が申請した「トキと共生する佐渡の里山」と石川県能登地域が申請した「能登の里山里海」が認定されたのが最初で、これまでに11地域が認定されていて中国に次ぐ認定数。世界農業遺産の半分以上を中国と日本で占めている状況だ。