「これからも推す」! 改めて誓ったほどに面白い、時代小説の注目作とは?
---------- 3月27日に発売された『無間の鐘』(著 : 高瀬乃一)。 オール讀物新人賞・日本歴史時代作家協会賞新人賞の話題作『貸本屋おせん』著者の最新作を、デビューからよく知るひとたちはどう読み解くのか? 今回は久田かおりさんによる書評を紹介します。 ---------- 【画像】人間の本性を鮮烈にあぶり出す時代小説
これからも推す
第一〇〇回オール讀物新人賞を満場一致で受賞した中編を含むデビュー作『貸本屋おせん』を読んだとき、「よし! 全力で推そう」と心に誓った。誓ったはいいが、自店ではなかなか思うように売ることができずにいた。忸怩たる思いを抱えていたある日、選考委員を引き受けている"本屋が選ぶ時代小説大賞"の候補になんとおせんが選ばれてきたではないか。推しが推されにやってきた。嬉々として臨んだ選考委員会の席上、あの手この手でおせんの魅力を訴え続けた。貸本屋を営む天涯孤独のおせんが巻き込まれる(あるいは首を突っ込む)本にまつわる事件たちを描いた連作中短編集は、おせんのキャラクタと彼女を取り巻く人々の優しさや幼馴染みとのかけあいがいい具合に混じり合ってとてもとても読み心地の良い捕物帖なのだ! と。そしてなにより紙好き本好きたちの心をわしづかみにするビブリア小説なのだよ! と。しかし、残念ながら『貸本屋おせん』は次点となり大賞は逃してしまったのだ。あと三時間ほどあれば他の選考委員を説得できたかもしれぬ、無念……などと思っていたところに届いた二作目がこの『無間の鐘』だ。 寡聞にして未知だったが、これは遠州は小夜の中山にある観音寺の梵鐘で、打てば現世では富貴に恵まれるが来世で無間地獄に堕ち、またその子どもは地獄のような今生を生きることになる、という恐ろしい鐘だという。この鐘のミニチュア版を持って世を渡り歩き、欲にまみれた人々を無間地獄へといざなうのが十三童子という僧形の人物。柿衣に八目草鞋、首から結袈裟をかけ手甲で覆われた手に錫杖を持つ見目麗しく怪しげ極まりない十三童子が、ある嵐の日に迷い込んだ小屋で十二人の水主たちに語って聞かせた物語たちからなるのがこの『無間の鐘』だ。