なぜトランプが勝利し、リベラルは負け続けるのか…多くの人が見過ごしている「問題点」
日本が向かうべきではない方向
抑圧・排除されたものは症状として回帰する。 その典型的な例として、トランプ氏が最初に大統領になった時、フランスの人口統計学者のエマニュエル・トッドは、先行の研究者による「1999年から2013年までに、45歳から54歳までの年齢の白人住民の死亡率が上昇していた」で、その原因が麻薬中毒、アルコール中毒、自殺だったという調査結果を強調した。そこまで追い込まれれば、白人男性も反撃するだろう。トランプ大統領の登場である。 日本で安倍首相が登場したことも、この「リベラル勢力に内在する問題点」に反応した面が大きいと考えている。その直前の日本では、あまりに短期間で首相が入れ替わり過ぎていた。 さて、しかし、リベラル勢力に内在する問題点が大きく、それが逆転した捻じれた集団的ナルシシズムだったとして、それをもう一度逆転させ、トランプや安倍首相のようなストレートな集団的なナルシシズムに走るばかりでは、分裂は解消せず、状況が流動化して不安定となる傾向が収まらないだろう。 タテ社会のあり方の保存を求める伝統的な価値観、それを乗り越えて普遍的な価値を求めるリベラルな感性、現実的な政治的経済的利益を確保するしたたかさ、それらすべてのバランスを取りながら物事を運営していく高度の統合がリーダーには求められている。アメリカのように分裂が激しくなる方向に日本が向かうべきではない。 この文章もそろそろ終わりである。 最後に近いが、ここに書いた「リベラルに内在する問題」は、長期間、私自身の問題だったことを認めない訳にはいかない。反省するし、謝罪が必要な相手もいるだろうと考えている。今後研鑽を続け、認識を深め、今までよりもよい活動ができるようにしていきたい。 イギリスの政治学者バーナード・クリックの「政治の弁証」からの引用で、この文章の締めくくりとしたい。 「政治とは、討論の過程であり、(中略)討論がホンモノで稔りあるためには、あることが支持されるのにたいして、その反対またはどこか矛盾する事例が考慮されるか――もっといいのは――その逆を信じる誰かによって支持されなければならない」
堀 有伸(精神科医・ほりメンタルクリニック院長)