「俺たちの柄本佑!」恋愛シーンの今っぽいバランス感覚と「力まなさ」で女も男もみるみる虜!【『光る君へ』12回までを振り返る】
大河ドラマを始め、ドラマ、演劇、映画に関するレビューや執筆に定評のある木俣冬さんが、改めて俳優・柄本佑の魅力について紹介します。 ※未見の方は以下、ネタバレを含みます。 「光る君へ」SNS上が悲鳴で溢れた9回~12回をダイジェストで振り返る 柄本佑が藤原道長で本当に良かった。大河ドラマ『光る君へ』(NHK)第12回まで見て、天帝に感謝の気持ちでいっぱいである。 道長は、『源氏物語』を書いた世紀の作家・紫式部ことまひろ(吉高由里子)を支えた人物として描かれている。 少年少女の時、運命的な出会いをしたまひろと道長がそれぞれ、作家と巨大な権力をもつ政治家になっていく中で、ずっとソウルメイトでい続ける物語は、第12回までが二人の青春時代。初恋だったけど身分違いのせいで悲しい別れを経験して、道長は出世のため、まひろの親友のような存在・源倫子(黒木華)に婿入りする。 第12回の段階で道長はまだ二十歳。だから、まひろへの接し方が若い。未熟。でもそれがまた良くて、毎シーン楽しませてもらった。 とりわけ、3回にわたって描かれた、まひろとのもどかし過ぎるすれ違い場面は、ロマンス感(それも悲恋の)満載であった。
SNS上が「史実はさておき結ばれて欲しい…!」「つらい…」の声で溢れた10回~12回
【第10回】高級貴族の道長と、階級の低い貴族の娘まひろは結ばれることのない関係性なので、道長は何もかも捨てて「遠くへ行こう」とまひろに迫る。 ところが、まひろに「あなたが偉くならなければ 直秀(毎熊克哉)のように無惨な死に方をする人はなくならないわ」と今の身分を捨てることは得策でないと嗜められてしまった。 そこで道長は考えて、【第11回】遠くには行かず、偉くなるから、妻になってくれ(ただし妾)と求婚。でもまひろは、妾はいや、と拒否。あれもいやこれもいやと「勝手なことばかりいうな」と、流石の穏やかな道長もキレてしまった。 それでもなお、まひろを忘れられない道長。なぜ妾がそんなに嫌なのか、周辺情報から学習し(学習能力があるところがいい)、【第12回】で再度求婚。妾でも絶対に大切にするという気持ちで、「妾でもいいと言ってくれ」と心の中で強く叫ぶ。彼が正妻に決めたのは高級貴族の娘・倫子(黒木華)で、まひろが心を許せる数少ない人物であった。知らなかったとはいえ、まひろの乙女心を著しく傷つけてしまう。 3回も振られ、やけになったのか、道長は文のやりとりという段取りを経ずして、その足で、倫子の家・土御門邸に向かうと、道長に夢中の倫子がやる気満々、積極的に押し倒してきて……。この時、そのまま女性に押し倒されたままにはならないのがなんか良かった。ちゃんと向きを変えて、自分からいく体勢に変えるのだ。男子のプライドか、あるいは、女性に恥をかかせない配慮か。柄本佑が演じると、後者のような気がしてくる。 柄本佑の愛情表現には紳士的な優しさがある。自分の魅力を見せつけるようなナルシスティックでマッチョな感じが微塵もない。かといって、愛玩動物的な受け身感でもなく、攻守のバランス感覚が抜群にいい。 恋愛ものがあまり求められていない時代だが、柄本佑のような接し方であれば、程よいのではないだろうか。 劇中でも「シュッとした」と表現される長身痩躯。烏帽子もお似合い。緌と呼ばれる冠の装飾もさらにお似合い。朝ドラこと連続テレビ小説「あさが来た」(15年度後期)では「白蛇はん」と言われていたあのひんやりした切れ長の瞳。淡々として見えて、その奥は燃えているようにも見える。
木俣 冬