竹中直人「もっと成長しているはずだった」自分を何者でもないと語る理由
――映画『ゾッキ』は山田孝之さん、斎藤工さんの3人で監督されました。 映画化にあたって山田孝之と斎藤工を絶対共犯者にしたいと思い、声をかけました。工は即座に快諾してくれましたが、孝之は、「プロデューサーは出来ますが、監督は僕は絶対やりません」と頑なだった。そんな孝之を必死で口説かさせて頂きました。「プロデュースはやってきたので協力させていただきますが、監督はちょっと」「でも、どうしても監督をやってもらいたいんだ」「いや、監督は」「そこを何とか」「いや、監督は…」とずっとやり取りして。最終的に「やります」と。本当によく引き受けてくれました。 素敵な時を共に作れました。石坂浩二さん、松田龍平、吉岡里帆ちゃん、竹原ピストル、安藤政信、鈴木福くん、倖田來未さん、森優作さんらがロケ地の蒲郡(愛知県)に集まり、みんなの呼吸、リズムが合って楽しい現場でした。緊張感はありつつも、やはり映画という夢に共に向かえた事、かけがえのない時間でした。 ――学生時代の竹中さんが、現在の竹中さんを想像できたでしょうか。 まさか自分が映画を作り続けていられるということは想像もしていなかったです。監督はいろんな人を共犯者にして巻き込んでいく仕事です。でもその気持ちは多摩美時代、8ミリ映画を作っていたときの感覚と全く一緒です。当時から絵コンテを描くのは楽しかったし、何も変わっていないです。全く成長していないですね。もっと成長してるはずだったのにね…。ただ歳だけは取りましたね。後は何一つ変わっていない。困りました…(笑)
――芸歴は40年になろうとしています。ずっと第一線で活躍されているという印象ですが、大変じゃないですか。 第一線なんてそんな意識は自分の中に全くないです。「『Shall we ダンス?』見ました!」「『秀吉』観てました!」と言われる事はありますが、「『無能の人』見ました」なんて、ほとんどないし。でもそんなものだろうと思っています。ヒット作には絶対勝てない。分かる人にだけ分かってもらえればいい、みたいな開き直りもないですが、「だってこれ、面白いじゃん?」という感じに近いかな。言いたいことがあるから、伝えたい事があるから映画にしたいと言うことよりも、そんな理屈を超えて、ただただ好きだから映画にしたんだよって感じですね。ずっと変わらないですそれは。 人生にはあきらめが必要だと思うし、継続は力なりって言葉も嫌いだし、背中を押されるなんて言葉も嫌いです。「ま、いいか…」というくらいが僕にとってはちょうどいいんじゃないかな。しかし、生きている限りは生き抜きたいですね。未来ではなく今を生きたいです。 ---------------- 竹中直人 1956年神奈川県生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。後に劇団青年座に所属。1983年、「ザ・テレビ演芸」でデビュー。1996年にNHK大河ドラマ「秀吉」で主演を務め、高視聴率を記録する。3度の日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など、多数の受賞歴を持つ。自身が再び監督する『∞ゾッキシリーズ』ドラマ「平田さん」は4月24日(日)、5月1日(日) 2週にわたって「BSJapanext」にて放送。