竹中直人「もっと成長しているはずだった」自分を何者でもないと語る理由
――芸人として人気を得て、その後はいかがでしたか。 先程もお伝えしましたが、僕はお笑い芸人とか区分けして考える意識がないんです。ただの肩書きでしかないと思っています。でも人はある意味そうやって人を括って捉えたいのでしょうね。玉川善治社長のおかげでごく一部の人がぼくを認めてくれて世に出ました。すると劇団時代、エキストラの仕事で現場に行って、ちょっと目立たなきゃと思って変な事を本番でやったら「お前どこの劇団だ?!引っ込んでろっ!」と怒鳴っていた助監督が、久しぶりに撮影現場で一緒になった時、「お~!お前は、いつか出てくると思ったよ!」と僕の肩を叩いて優しく接してくれました。あっ…認められるというのはそういう事なんだな、ってその時思いました。 そしてある程度売れなきゃ認められないしね。同時に、人気が急になくなるかもしれないという不安もある。評価がコロコロ変わる世界は身を持って感じてきました。残酷な世界です。「この人は面白い人」とある程度評価されたら、出てくるだけでお客様が笑ってくれる。その時点でもう評価が固まってしまう。もうこれで終わりじゃん、っていつも緊張していました。 ――ブレイクした時にそんな気持ちだったとは知りませんでした。 ブレイクなんて言葉は嫌いです。極端な言い方をすれば僕は日々挫折しています。その状態はずっと変わらない。困難に立ち向うとか、何かを打破するという意識もない。調子に乗ることもないかな。けど、人に持ち上げられて一瞬そんな事はあったかも知れないかな…。 なんだかよく分からないけれどお笑い芸人と言う言葉はどこか卑下しているような感じがします。一体何故なんだろう、とずっと感じています。シリアス=正義、ふざける事は最低。よく分からないです。どんな仕事もみんな一緒だと思っています。同じ人間なのに、肩書きで人を決めつける。 人生はずっと矛盾との闘いですね。僕は大人になったらもっと強くなってるって子供の時には思っていました。でも何にも強くなってない。逆に弱くなっているかも知れません。大人になれば、他人が勝手に言う傷つくような言葉もはじき返せると思っていました。でも生きている事、生き続けている事自体が自分だけではなく他者をも傷つけているんだな、という事は感じています。今さらネットの悪口に傷つくんです、なんて言えないしね。もうそんな次元を超えてしまった世界ですね。